「怖い噂」の“宮崎勤と12話”関連記事を検証

2013年7月発売の「怖い噂 別冊 マンガ・アニメ都市伝説」(ミリオン出版刊)に、かつて不思議ナックルズVOL・5(2006年)に掲載された、“宮崎勤と12話”関連の記事が再録されている。作者は「封印作品の謎」シリーズのルポで有名な安藤健二氏。


記事のおおまかな内容は「ウルトラセブン12話ビデオの流出元は宮崎勤ではないか」「宮崎は怪しげなブローカーに、12話ビデオと引き換えに、死体ビデオの製作を頼まれたのではないか」というものだ。

手前味噌だが、流出元の噂については当サイトの〈宮崎事件ガセビア〉に書いている。「12話ビデオの流出元は宮崎勤」があり得ないデマであることは、そちらで検証済みだ。



この記事自体は前から知っていたが、そもそも取り合うに値しないヨタであり、直接冤罪説とも関係ないので、特にバックナンバーを調べたり、当サイトで採り上げることはしなかった。

だが、再録された記事を読んでみると、「数年前に編集部に届いた匿名の手紙」とやらの画像が掲載されている。これが実にいかがわしさ炸裂のシロモノなので、今回はこの“匿名の手紙”なるものを検証しておこう。

画像では読みづらいので、下に全文をテキスト化した(読みやすいよう、こちらで適宜改行)。



●“匿名の手紙”全文



別紙の記事を読んでいて、久し振りにツー君のことを思い出した。

あれは、1985年頃だったろうか。当時『テレパル』というテレビ雑誌の片隅には、毎号録画できなかった番組や入手困難なビデオを求めるコーナーがあった。

そのコーナーを通じて、円谷プロが永久欠番として消滅させたウルトラセブン12話「遊星より愛をこめて」を持っていた宮崎勤と知りあった。

あの当時幻と言われた12話を持っているのは、彼くらいのものだった。今では、彼を起点に人から人へと流通した12話を持っている人は、少なくない。とにかく彼は稀少映像をたくさん持っていて、僕らの間ではツー君と呼ばれて有名だった。

もともとツー君は、特撮やアニメの稀少映像を収集・録画しているだけで、何かの本に書いてあったように6,000本のビデオの中身は、全く整理されておらず、それこそ雑多な映像の吹き溜まりのようなものだったろう。

警察は、押収した証拠品のビデオを苦労の末全部視聴したそうだが、その入手経路までは捜査しなかったというより、さすがに捜査する人も時間もなくてできなった。

ところで、ツー君は12話をどこから入手したのだろうか?稀少映像をコレクションしている仲間の中には、アダルトやスナッフ系をコレクションしている性質の悪い連中もいた。実は、ツー君は、12話をこうした性質の悪いビデオ・ブローカーから入手したのである。

僕らは「気味の悪い連中だから近づくな」と警戒していたにもかかわらず、ツー君は12話欲しさに接触し、何かを取り引き(約束)させられ何とタダで12話のビデオを奴らからもらったのである。

これ以後、ツー君と僕らの親交はめっきりなくなった。ツー君は、変わって頻繁に会うようになったビデオ・ブローカーからたくさんの稀少映像をダビングしては、たまに僕らにそのコレクションを自慢するだけとなった。

自慢話を聞く中でわかったのは、明らかに彼のジャンルが変化したことだ。僕らが知ってるツー君は、あのような事件とは無縁のあくまで特撮・アニメが好きなだけの単純なコレクターに過ぎなかったのに、いつしかビデオ・ブローカーから得た変な映像を集めるようになっていた。

その決定的な例として『宮崎勤精神鑑定書』(講談社)187ページに、鑑定人との次のようなやりとりがある。

「知人から何本か譲ってもらったこともある。持っていれば、有力で、交換することもある。

<実際に交換したこともありますか>

うん。海賊版とかヤクザが撮った物とか、どっかの製作会社の人が無修正で垂れ流した物とか、あと、あばずれや貧乏人が金のために出した物とか、中国人とか基地の外人が流した者とか‥‥。見たくないからダビングしている時、普通のテレビを見ている。

<見たくないというからには、見たわけですよね。見た印象はどうでしたか>

見たくない。御飯食ってる時見かけなくてよかったと思う。あと、人間と馬がやってんのを持ってきてくれたり‥‥。」


ここに登場する知人、ヤクザ、製作会社の人こそ12話をエサにツー君に近づいてきたビデオ・ブローカーなのである。

僕はたまにツー君を懐かしみながら考える。自分のコレクションすら整理できない雑なツー君が、あれほどの犯罪を考え実行できるほどの緻密な男だろうか。あの事件を企画したのは、僕らが最後まで警戒していたビデオ・ブローカーだったのではなかろうか。

ツー君は他にも『サンダーマスク』や『猫目小僧』などの映像を欲しがっていた。彼らがこれら12話のような稀少映像をエサにツー君にあのような犯罪をやらせ、ビデオ撮影まで指示したとしか思えないのである。

アダルトやスナッフにはまったく見向きもしなかった単純粗雑なツー君と連続幼女誘拐殺人事件の今田勇子とは、どうしても同一人に思えないのである。

                                       元「テレパル」購読者より


「できなった」「」はママ。

扉には「はたして、この手紙の内容は事実なのか‥‥?」と、懐かしき川口浩探検隊ナレーションのようなアオリが付いているが、こんな手紙、オレにだって書けるぞ(笑)。

何しろ、ツー君と親交があったという割には、その具体的な事実が何一つ示されていない。彼はビデオ仲間とは必ず手紙でやり取りしていたから、それらのコピーか何かくらい同封できないものか。

何なら、筆者も試しに、あることないことでっち上げ、「私も宮崎勤と親交がありました」と手紙を送ってみようか。すごくリアルに書く自信があるぞ。編集部は「はたして、この手紙の内容は事実なのか‥‥?」と、採り上げてくれるんだろうな(爆)。



●手紙のボロ

話の内容も矛盾だらけだ。手紙の冒頭では、


『テレパル』というテレビ雑誌の〜コーナーを通じて〜12話を持っていた宮崎勤と知りあった

と書いているのに、その後「宮崎が12話欲しさに怪しげなブローカーに接触し、入手した」という話になり、


これ以後、ツー君と僕らの親交はめっきりなくなった

となっている。オイオイ。宮崎と付き合いだしたのは、彼が12話を入手した後なのか、その前からなのか、ハッキリしてくれよ。


あの当時幻と言われた12話を持っているのは、彼くらいのものだった

これも当時の12話流通事情(?)を、実際は知らないで書いているのがバレバレだ。『ファンロード』85年の号から、再度引用。

ファンロード(ラポート社)1985年7月号より

手紙の主は「85年頃、12話を持っていた宮崎と知り合った」というが、その85年には、円谷プロがこんな“お願い”を出すほど、とっくにマニア間には大量の12話ビデオが流通していたのだ。



http://www.bekkoame.ne.jp/~cokanba/data.htmlより転載

写真雑誌「スクランブルPHOTO」1983年の号に「『ゴジラ』『ウルトラセブン』の消された部分」と題し、「12話ビデオがマニア間で数万円で取引されている」等と書かれている。12話ビデオの流通は、実際には81〜2年頃から始まっていた。
当時12話を入手したければ、情報収集が不可欠だったはずであり、85年の時点で「あの当時幻と言われた12話を持っているのは、彼(宮崎)くらいのものだった」な訳がないことくらいは、知っていて当然のはずである。

(余談だが、同じ85年頃、筆者も数人のマニアから見せてもらったものだ)。



●引用の“小細工”

また、この手紙の主は引用に際して“小細工”を行なっている。

宮崎が怪しげなビデオ・ブローカーから「たくさんの稀少映像」「変な映像」を集めていた証拠?として、瀧野隆浩著『宮崎勤 精神鑑定書:「多重人格説」を検証する』の187ページから、以下のように引用している。


その決定的な例として『宮崎勤精神鑑定書』(講談社)187ページに、鑑定人との次のようなやりとりがある。
「知人から何本か譲ってもらったこともある。持っていれば、有力で、交換することもある。

<実際に交換したこともありますか>

うん。海賊版とかヤクザが撮った物とか〜(略)

オリジナルの該当箇所はこうなっている。

瀧野隆浩著『宮崎勤 精神鑑定書:「多重人格説」を検証する』より

ご覧の通り、実際は単に、宮崎と鑑定人が裏ビデオについて話しているだけの箇所なのだ。それを「裏ビデオ」の語を切り取り、あたかも得体の知れぬ、「変な」映像を集めていたかのように話を作り変えている。

そして、


ここに登場する知人、ヤクザ、製作会社の人こそ12話をエサにツー君に近づいてきたビデオ・ブローカーなのである。

とのことだが、「知人、ヤクザ、製作会社の人」ってオイオイ、幻の12話を持った怪しげなブローカーが、そんなにウジャウジャ宮崎のところに寄り集まっていたのか?(笑)。せめて一種類に絞ってくれないだろうか。

おまけに、

自分のコレクションすら整理できない雑なツー君が、あれほどの犯罪を考え実行できるほどの緻密な男だろうか。

とあるが、脱輪して、パニクって死体をその場に投げ捨てたり、わざわざ犯行当日にレンタルカメラを借りて、そのレンタル記録を残すような男の、どこが緻密なのだろうか。せめて自分のカメラを購入していれば、そんな記録を残さずに済んだものを。


●元ネタは小池氏の記事?

手紙では最後に、

あの事件を企画したのは、僕らが最後まで警戒していたビデオ・ブローカーだったのではなかろうか。

と書いているが、これは明らかに、前年の05年に同誌に発表された、小池壮彦氏によるペテンとデマで塗り固められた記事「宮崎勤事件―――破綻した謀略のシナリオ=vからインスパイアされたもののようだ。

その小池氏の記事ではこう書かれている。


宮崎は趣味でビデオを集めていたというより珍品のブロ―カ―だったと考えた方がよい。(中略)仮に死体ビデオの二―ズが高まれば、また宮崎を利用してその手のビデオを作ろうとした人間がいたとしても不思議ではない。
そしてその人間を通じて宮崎は無意識のうちに闇社会のマ―ケット≠ニつながっていった可能性もある。

http://www.asyura2.com/0505/bd41/msg/730.htmlより


繰り返すのもくどいが、この話は単なる小池氏による、小学生レベルの“空想”である。具体的な根拠など何一つ示されていない。
「可能性もある」とボカして逃げを打っているが、そんなもので良いのなら何を書いたってアリだ。
そもそも「ビデオ・ブローカー」なる語が、例えば当時、裏ビデオ業者などに対して使用された例を、筆者は寡聞にして知らない。

ビデオテープは、一度客の手に渡れば個人でダビング・コピーが可能であり、どれだけ流通しようと巨額の収益を生み出す性質のモノではないのだ。「ブローカー」なるご大層な職種など、存在しようがない世界である。

宮崎を「ブローカー」という珍妙な例えにしているのは、筆者の知る限り小池氏の文章くらいだ。手紙の主はこの、いかにも怪しげな響きの言葉に刺激され、想像をふくらませたのであろう。



●手紙の“真実”

結論として、この匿名の手紙なる物に、真実性など1ミリも感じられない。まず間違いなく「怖い噂」(当時は不思議ナックルズ)編集部が、小池氏の記事をヒントに、おどろおどろしい話をでっちあげて創作した“ニセ手紙”であろう。

仮に実際に送られたものだとしても、上記したように矛盾だらけであり、小池氏の記事に触発された読者の作り話としか思えない。
だいたい、もしこの匿名の読者なる者が実在して、実際に当時宮崎と親交があり、何らかの告発(というほどの内容ではないが)をするのなら、なぜもっと然るべきメディアに持ち込まないのか。いかがわしさを売りにしている実話エロ系雑誌に投稿して、いったい何のメリットがあるのか。



●安藤氏の○作記事

この記事に関してだけは、あの安藤氏が、残念ながらトチ狂っているとしか思えない出来栄えだ。

本当は記事の全文を紹介したいが、さすがにそれは著作権上マズイので、抜粋にとどめたい。
安藤氏は“円谷プロと何のつながりもないはずの宮崎が、どうして12話を入手できたのか?”等の疑問を書いているが、それを言ったら、当時12話を持っていた人ほぼ全員にあてはまってしまうと思うのだが‥‥。

そしてくだんの手紙に触れ、「宮崎は悪質なビデオブローカーから、12話譲渡の交換条件に、幼女の死体ビデオの製作を指示された」なる話を「どこまで信憑性があるのかは分からない」としながらも、「事実であれば衝撃的な内容」と紹介している。

だが宮崎は、少なくとも85年頃には12話ビデオを入手しており、その時期にやり取りした手紙が残っているのだ。一連の事件が始まるのは88年からである。ブローカーは3年も待っていたというのだろうか?安藤氏ほどの方がそんなことも気付かなかったのか?

記事そのものも、終盤になるにしたがって、腰砕けな結論になってゆく。見出しでは派手に「12話の流出元は宮崎勤」となっているのに、本文では結局否定、手紙の真偽については「不明」、宮崎の12話入手ルートは「分からない」‥‥。

筆者は安藤氏のファンである。「封印作品の謎」シリーズ他では、その大胆かつ粘り強い取材で、迫力あるルポをものした方だ。

だが残念ながらこの記事は、とても同一人が書いたとは思えない。他の「怖い噂」のライター同様、いかがわしいデマばら撒き記事に堕してしまっている。

もっとも、氏はライター業から引退されてしまったようだが。少なくとも「怖い噂」のレギュラーとなって、今回のような○作記事を量産し、筆者のようなファンをガッカリさせるようなことにはなっていないのが、せめてもの救いだろうか。




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