小池壮彦「宮崎勤――疑惑の死刑執行」を検証する
―その3―


重大な秘密?




疑惑の死刑執行」より

申し訳ないが爆笑してしまった箇所である。たかだか床のエロ雑誌の並べ変えを、よくもまァこれだけ仰々しく書けるものだ。

「重大な秘密を暴露」ってwwwどうやら当時の報道を見ていた人間は全て、マスコミによって騙されていたらしいw。


エロ雑誌がわざとらしく、目立つように並べ換えられたことなど、多くの人が当時とっくに知っていたことである。筆者も知人と世間話で「あれはヤラセだよねェ」と、苦笑し合ったものだ。「秘密」でも何でもないんですが。


下の二つは当時のコメント。とり・みき氏のコメントに注目。事件報道の渦中に、これだけ冷静で醒めた視線で、マスコミがおたくバッシング寄りな報道をしているのを批判している。

月刊ニュータイプ1989・11/とり・みき氏のコメントより)(「幼女連続殺人事件を読む」1989/大月隆寛氏のコメントより)


並べ変えられた雑誌の検証写真は「部屋に入ったマスコミ」の後半を参照。「手を加えた可能性はきわめて高い」どころか、雑誌類はひっかき回されている。

だがご覧の通り、荒らされたのは床の部分のみで、他は手をつけられた様子はない。

                (朝日新聞社)                        (共同通信社)


例の木村氏のブログは、冤罪派や陰謀オタクに「やっぱり捏造はあったんだ!」と、燃料投下をしたに過ぎなかったようだ。


ちなみにこの「一番上に重ねた」は、ハッキリ言ってウソである。理由は、くどいが「部屋に入ったマスコミ」の後半を参照のこと。


疑惑の死刑執行」より


単なる床のエロ雑誌の並べ替えを、「報道関係者によってイメージが作為的に作られていた」と、かくも針小棒大にのたまっている。

事件報道をリアルで御存じない、お若い世代なら「そうだったのか!」と、たぶらかすことができるだろう。だが筆者のようなリアル世代にとっては、ヘソが茶を沸かす話でしかない。
ところで、小池氏は以前「破綻した〜」の記事中で、「あるディレクターが部屋にビデオを積み上げた」と書いていたのではなかったか。
それが事実なら、雑誌の並べ替えなどどうでもいいレベルの話のはずだが。“謎のディレクター”の話はどこへいってしまったのか。今回の記事には、なぜか全く登場しない。

何より驚くのは、「かくして宮崎事件が“作られた事件”だと証明された」という、強引にも程がある結びだ。

4人の幼女の誘拐も殺害も、全てはエロ雑誌の並べ替えによるイリュージョンだったのだそうですよ(^_^;)。
まァもっとも小池氏は「宮崎は※SSRIのモルモットにされていた!」だの、「マッチ母の遺骨盗難の犯人は宮崎で、中森明菜潰しのキャンペーンに利用された!」だの、といった電波記事を書いていた御仁である。この程度は強引でも何でもないのだろう。

※覚醒剤中毒に似た副作用の恐れが指摘されている抗うつ薬の総称。


怖い噂 2011/VOL・8より)                (不思議ナックルズ 2007/VOL・12より

彼はこうした、リチャード・コシミズもビックリな妄想記事を書いた、その同じ筆‥‥もといキーボード?で、原発やら北朝鮮関連の社会派“風”ルポを書いておられるのだ。片腹痛いとはこのことだ。



●謎の“20メートル”




疑惑の死刑執行」

この、13日の捜索における真理ちゃんの遺骨の発見場所は、多くの資料で「正美ちゃんの遺骨発見場所から20メートル」と書かれており、ほぼ既定の事実とされている。

(朝日新聞89年9月13日)       (東京新聞89年9月13日)

事実だとすれば、確かに不可解なことだ。「わずか20メートルの地点にあった真理ちゃんの骨が、正美ちゃんの捜索時に見つからなかったとは、警察の目はフシアナか」となるのももっともだ。

小池氏の書く通り、佐木隆三氏もルポ中に朝日新聞の記事を引用し、「9月6日に真理ちゃんの遺骨に気づかないはずはない」と、疑問を投げかけている。


ところが、こんな記事が存在するのだ。

(埼玉新聞89年9月14日)

これは埼玉新聞社が、狭山署捜査本部の発表を受けて書いた記事。ここでは真理ちゃんの遺骨発見場所が、正美ちゃん発見場所から「約110メートル」となっている。

「20メートル」と書いた他社の記事は、どれも埼玉県警・警視庁合同捜査本部の発表を元にしている。狭山署捜査本部と合同捜査本部の発表で、なぜこれほど、発見場所間の距離が食い違っているのか。

どちらかの発表が間違っているのか。それとも、記者が勘違いした誤報なのか。


ただ、どの記事にも共通して書かれている“もう一つの20メートル”がある。それがこれだ。

(埼玉新聞89年9月14日)

「林道から沢に20メートルほどおりた杉林の中から〜」とある。この「林道から20メートル」が、発表か記事か、いずれかの段階で「発見場所からの距離」と混同されてしまったのではないか。
埼玉新聞の記事はご覧の通り、斜面の角度や散乱範囲などの数字が妙に細かく、どこの社よりも具体的に書かれている。信頼性は高い。

地図をご覧頂きたい。真理、正美両名の遺体発見場所の地番は、それぞれ〈戸倉字(あざ)日向峰2311番〉〈同2318番〉である。その部分を公図に基づき、グリーンで色分けしてみた。


右下にある、旧小峰隧道の全長が約80メートルである。どうか二つの発見現場の距離を類推して頂きたい。

筆者も、この2地点は独自調査を行なった。正確に測った訳ではないが、両地点間の距離は100メートル以上離れている。「20メートル」など、あり得ない話だ。

捜索にあたった捜査官らは、法廷でこの件について詳しく質問されているが、両地点の距離が「20メートル」とは、誰一人答えていない。
佐木氏のルポも、信頼性は高いものの「有明テニスの森は定休日だった」なる、宮崎のウソを信じてしまってたりと、所々にポカがあるものだ。
問題の「20メートル」は、まず間違いなく“誤報”と結論付けられよう。



●小池氏の珍説




疑惑の死刑執行」

この正美ちゃんの遺体状況に関する、いかがわしさ炸裂ぷりは「遺体発見時の状況」にも書いた。正美ちゃんの各部の骨は散乱し、動物の咬傷(噛んだ跡)があり、腰骨に至っては、ついに発見されなかったのだが。

(東京新聞89年9月7日)

小池氏はこんな珍説を唱えている。

「宮崎以外の人間によって、遺骨が後から置かれたと考えるしかない」――???ではその骨はどこから調達してきたと言うのか、お教え頂けないだろうか。

そもそも小池氏は、正美ちゃんの遺骨について、このように書いていたのではなかったか。

(不思議ナックルズ 2005年/VOL・4より)

「遺体が山小屋に隠されていたということ」で「理解」できていたのではなかったのか。山小屋の話はどこへ雲散霧消してしまったのか。
そもそも、山小屋云々はただのバカバカしい誤報であり、現地には山小屋など一軒もないのだが。

もっともこの話も、小池氏のオリジナルではない。元はお馴染み「M君〜会」小笠原氏の唱えた珍説のパクリだ。


小笠原和彦著「宮崎勤事件夢の中―彼はどこへいくのか」より。

「それが見つかり、利用した」んですって‥‥まるで車に轢かれた犬か猫の死体のごとく、正美ちゃんの遺体は「どこかその辺で見つかり」「利用された」そうである(笑)。

「正美ちゃんの遺体が(とにかくどこかで)見つかったぞ。よし、これを宮崎の家の近くに置いて奴の犯行を印象づけよう」となったとしよう。

ならばなぜ日向峰なのか。宮崎宅裏の雑木林、いや自宅の床下にでも置いた方が、より完璧に印象づけられるではないか。筆者ならそうする。




現像所




疑惑の死刑執行」

「現像所が特定されていない」――何を言いたいのか、少々意味不明な物言いだ。

恐らく、文脈からすると「絵梨香ちゃん写真は警察が捏造したものだ。だから現像所が特定されていないのだ」と、小池氏らは言いたいのだろう。

下はまだ捜査中の記事だが、宮崎が「瑞穂町内の写真店」で絵梨香ちゃん写真の現像を依頼したのは、とっくに特定されている。報道や裁判ルポでは、具体的な店名はボカされて、書かれていないだけだ。


(毎日新聞89年8月30日)

下の記事も店名はボカしているが、宮崎は都内のあちこちの店にテニス少女のパンチラや、幼女の性器を盗撮した写真を現像に持ち込んでおり、それらはどれも特定されているのだ。

(朝日新聞89年8月14日)

「絵梨香ちゃんの写真については証言しなかった」は恐らく、第4回公判での、証人尋問のことを言っているのだろう。

このとき後藤警部補は綾子ちゃん写真について質問されており、それについて答えているだけだ。絵梨香ちゃん写真のことは訊かれていないのだから、証言していないのは当たり前なのだが。




弁護人との一問一答




疑惑の死刑執行」

小池氏が弁護人と会話している部分。ここで言っている「写真」とは、宮崎のラングレー車内で写された絵梨香ちゃん写真のこと(「脱輪に関する証言」参照)。
「写真は我々でも作れますが」と言っている。もちろん現在であれば、パソコンを駆使してリアルな捏造写真がいくらでも作れるだろう。だがアドビ社のPhotoshop1.0が発売されたのは90年である。

当時の640×400ドットのNEC・
PC−9800シリーズなどで、どこまで高解像度の画像が作れたのか‥‥いや、アナログの手作業でもよい。とにかく作れたとしよう。
それには必要な物がある。ラングレー車内の幼女の写真である。ラングレーのシートに5歳の幼女を全裸にして座らせ、写真を撮ることまでは、まァ可能であろう(相当いかがわしい情景だが)。

そして絶対になくてはならないのは、絵梨香ちゃんの顔写真だ。これだけは遺族から入手するしかない。

だが顔をすげ替えてアイコラ?写真を作ったところで、遺族が見れば一発で元がバレるではないか。問題の写真は警察が母親に見せて、本人だと確認を取っているのだ。

「写真は我々でも作れますが」と言うのなら、母親を騙せるほどのクオリティーの捏造写真を、ぜひ作って見せて頂きたいものだ。


なぜ“中国人”が




疑惑の死刑執行」

完全に小池氏の妄想である。「破綻した〜」でも「宮崎は闇社会の珍品ブローカーだった“可能性がある”」(笑)とあるが、いったい何の根拠に基づいて書いているのか、お教え頂けないものだろうか。
一連の事件が始まってから、宮崎の逮捕までは約11ヵ月。家宅捜索で見つかった遺体ビデオは3本である。もし本当にブローカーだったら、さぞや大量のダビングテープが押収されたはずであろうに。

「同人誌に9人のスタッフ名が」ともあるが、彼らはCMビデオの収集に協力しただけで、住所もそれぞれ北海道、奈良、東京、大分、熊本、福井、大阪、山口、佐賀だ。行動を共にしていた訳ではない。


何よりこの文章で引っかかるのは、なぜか突然「ビデオクラブには中国人もいたらしい」と書かれている点だ。


なぜここで唐突に中国人が出てくるのか。中国人がビデオクラブにいたら何だと言うのだろうか。

小池氏は当時のビデオサークルの会員名簿を全てチェックして書いたのだろうか。仮にいたとしても、他のメンバーと同じく、普通にビデオ交換を楽しんでいただけかもしれないではないか。

恐らく、前段に“中国人”を置くことで、後段の“犯罪ネットワーク”の語に、サブリミナル的につながる効果を狙った文章ではないか。
確かに、現実に中国人の不法滞在者や、ピッキング強盗団などがニュースを騒がせたことがある。
日本人にとって中国人は「怪しげな、良からぬ集団」のイメージが、報道によって刷り込まれているかもしれない。それを小池氏はここで確信犯的に利用しているようだ。

仮に小池氏が例の在特会寄りの人物なら、間違いなくここは“中国人”ではなく“朝鮮人”になっていただろう(爆)。

まァ昨今、ネット右翼による、反吐の出るような差別落書きがあふれているインターネットだ。この程度は誰もどうとも思わないのだろうが、言わせて頂ければ、こんなものは“悪質なデマ”以外の何物でもない。

何の根拠もなしに、平然とこのような記事を発表するとは、まともな表現者なら恥を知るべきだ。




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