■女性誌の報道

当時の「ミヤザキ報道」がいかに狂騒的で、ハメを外して暴走していたか、すでにリアルではご存じない世代も多いだろう。

特に、タイトルの派手さで一発勝負?な女性誌の記事が、この時期どれだけトチ狂っていたかご紹介しよう。



――「宮崎の悪魔のバイブル 問題のビデオ『血肉の華』をあえて公開!」――


女性セブン89年9月7日号より

宮崎の部屋にはなかったにも関わらず、「血肉の華」はここでも完全に“犯行のお手本”にされている。ちなみにこの記事では、パリ人肉事件の佐川一政氏が事件についてコメント。「私は彼に童謡を差し入れてあげたいですね」と語っている。


――「全国のお母さん是非読んで!オッパイで育てない子は『宮崎』になる!」――


女性セブン89年9月7日号より

「オッパイで育てない子は『宮崎』になる!」――!女性誌の記事タイトルでは最強のインパクトだ。かなり差別的なニュアンスも感じる。当時、宮崎姓の小中学生の方はいわれのないイジメを受けたのではないだろうか。



――「あの悪夢の部屋には聖子、伊代、後藤久美子の秘蔵ビデオが!
アイドルタレントも狙っていた!?」――


女性自身89年9月5日号より

部屋にアイドルもののビデオやカセットテープも多くあったことに触れ、「もしも、このまま逮捕されずにいたら、次はこのアイドルたちだって狙われたかもしれない…」とコメント。それはいくら何でも無理かと思うのだが。



――「ああ、宮崎家の崩壊 秋に結婚の妹の婚約が破棄!」――


女性自身89年9月5日号より

この写真はなかなかのイケメンでちょっと驚いてしまう。髪型からして中学生の頃の写真だろうか。

(一橋文哉著『宮崎勤事件 塗り潰されたシナリオ』(新潮社/2001)より転載)

それがどうしてこうなってしまうのか…(埼玉県警狭山署に移送後、撮影された写真)



――「呪われた!宮崎勤!『胸に不気味なシミ』写真」――


女性セブン89年9月28日号より

このニセ心霊写真は、読売新聞社の実況見分時の写真に、後からエアブラシで少女の顔をそれっぽく描き込んだもの。朝日の方は、望遠カメラで撮ったため、木の葉がボケて写ったものをさらに加工している。

(読売新聞89年9月2日夕刊)    (朝日新聞89年9月2日)

女性セブンは美空ひばり逝去後の記事でも同様のことをしており、まァ主婦向けの他愛ないサービスだったのだろうが、さすがに事件が事件であり、不謹慎と批判されたようだ。

読売新聞社は女性セブンに抗議、後に同誌は〈訂正とお詫び〉を掲載。


女性セブン89年10月19日号より


この心霊写真捏造事件は「創」89年12月号で詳細な記事となっている。それによるとこの件で編集長は解任、デスクや記者は停職、減俸処分と異例の厳しい処分がされた。だが実は表向きに体裁を取り繕っただけで、彼らはすぐ現場に復帰したそうである。
因みに宮崎の隣の、いかつい顔の刑事は、しっかりとその手に腰縄を握っている。



――「あえて劇画で再現!禁断の男、宮崎勤が作り上げた
これがあの綾子ちゃんの遺体ビデオ!」――


女性自身89年9月12日号より

口からヨダレをたらして「ムフフフ」はちょっといかがなものか(笑)。最近はどうなのかは知らないが、当時の女性誌は猟奇的な殺人事件を、よくこのようにマンガで“図解”したものだ。



――「5人目も白状 大沢朋子ちゃん(8歳)も殺して捨てた!?
天国の朋子ちゃん とうとう犯人が見つかったよ…」――


週刊女性89年9月19日号より

警察が何も発表してないのに、宮崎事件の一年前、群馬で発生した大沢朋子ちゃん誘拐殺害事件も、彼の犯行と勝手に断定されている。

見出しには「5人目も白状」とあるが、記事のどこをどう読んでも、自供したとは一行も書かれていない。何を書こうが、末尾に「!?」さえ付けておけばOKらしい。

宮崎関与の疑惑については、群馬県警太田署が近々記者会見を行なうと書かれている。これは(珍しく)事実。


週刊女性89年9月19日号より

だが結局、宮崎との関連は公式に否定された。

(上毛新聞89年9月13日) 


――「マッチの母の遺骨を盗んだのは幼女殺人鬼の宮崎勤!?」――


週刊明星89年9月2日号より

87年12月、当時のジャニーズ系アイドル、近藤真彦の母親の遺骨が墓から盗まれ「返して欲しければレコード大賞を辞退しろ」旨の脅迫状が届くという事件があった。

その犯人は宮崎ではないかという記事だ。同じ頃マッチと交際していた中森明菜のファンである宮崎が横恋慕、その腹いせだったと言うのである。

こじつけもいいところと言うか、朋子ちゃんの件といい、猟奇的な事件は全部ミヤザキに押し付けてしまえ、といったノリだ。




――「犯人・宮崎勤は腐敗していく幼女の死体を見て『ニヤリ』と笑っていた!」――




女性自身89年9月5日号より

「ニヤリと笑いを浮かべながら」って‥‥見たのかよ、という話だ。

イラストは同記事中の「アニメおたく」図解である。部屋のビデオテープコレクションにアニメの割合は少なかったはずなのだが、なぜか宮崎は「アニメおたく」にされている。

●性格:暗い、無口(挨拶もしない)カッとしやすい ●アニメファンのダサイ服装(白地に青いストライプのよれよれシャツ)等々、この時期、今よりもはるかに露骨にオタクは蔑視されていたものだ。




――「子どもを作れない“性的不能者”だった!」――




女性自身89年9月12日号より

「かなり小さいっていう話ですよ」と言われましても(笑)。

性的不能かどうかは知らないが、こちらはコメントが不能である。犯罪者とは言え、こんなことまでアレコレ書かれるのもたまったものではない。

宮崎は逮捕前、日課のようにパンチラ盗撮にいそしんでいたというのに、精神鑑定では「性的なことには全然興味がない」等、全くもって言行不一致なことを言っていた。

ここでもポルノビデオを「こんなものを見ても興奮しない」と言ったようだが、ならなぜ見ていたのかとツッコミたくなってしまう。




――「人相にもはっきり!!こんな男は要注意」――


週刊女性89年9月5日号より

眉の形が不ぞろいだと「精神のバランスが悪い」、目下のホクロは「年下の女の子で苦労する」のだそうな。もはや完全にオモチャである。


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