犯人は“中出し”していた

大変下世話な表現を、項目のタイトルに使って申し訳ないが。

脅迫状を始め、善枝さんの死体・遺留品からは、直接犯人につながる指紋や毛髪といった物的証拠は何一つ見つかっていない。これだけでも犯人が、恐ろしいほどの周到な人物だと分かる。

だが、他の物は無いのに、まるでわざとこれ見よがしに置いていった証拠がある。それが善枝さんの体内に残されたB型の精液だ。
後は脅迫状の筆跡くらいだろう。

犯人は佐野屋からの逃走の際、警察犬の追跡を振り切るために、川に入って匂いを消した可能性がある(川の土手で動かなくなったということは、匂いが断たれてしまったからだろう)。また、紙類からも指紋が検出できることを知っていた人物である。

現在のように情報があふれている時代なら、一般の人でもそうした知識を得られようが、この当時、その手の知識に詳しかったのはどういう人物だろうか。

●強姦殺人に偽装?

「犯人は被差別部落に捜査が向くよう、死体に工作していた」なる話をよく見かける。確かに、死体を後ろ手に縛ったり目隠しをする必要は無い訳で、強姦殺人を偽装しながら、わざと企業名入りのタオルや手ぬぐいを残したようにも思える。
商店がお得意先に配る粗品の配布先など、普通は誰も気にも留めないだろう。警察がタオルや手ぬぐいの配布先に捜査を絞っていくことを、犯人は計算して死体に残したのだろうか。個人的にはちょっと、そこまで考えたとは信じがたい気もするが。

そもそも、後で死体を発見してもらわなければ、偽装を施したとしても全く無意味だ。そのための農道への埋没だったのだろうか。

犯人は警察の捜査というものに、相当マニアックな知識を持っていたと思われる。無知な犯人が逃走時に、警察犬の追跡などとっさに思い至るものだろうか。そうした犯人なら、精液から血液型が判別できることぐらい先刻御承知ではなかったろうか。

●偶発的な殺害だったか

精液や胃の内容物が残ったままということは、殺害が、食事や性行為の後の偶発的なものだったという諸説にも納得できるものがある。もし計画的な殺害だったら、そんなヘマはしないだろうからだ。

しかし犯人が「ヤバい、殺す前に中出ししちまった。精液から血液型がバレる」と思ったならば、徹底的に、死体そのものが見つからないよう処理するのではないか。

死体は人が通る農道に埋められていた。すぐ見つかっては困るが、ある程度経ってから誰かに発見されるよう、意図的に埋めたように思えてならない。
これだけのことができる犯人なら、誰にも見つからないよう、山奥に運んで埋めるくらいのことは朝飯前のはずだからだ。

(これは石川氏が犯人ではあり得ないことにもつながる。もし石川氏が実は周到な人物だったとしたら、行き当たりばったりに白昼、誰かに見られる可能性があるところで善枝さんを誘拐するはずもないし、自分が日常使っているタオルや手ぬぐいを残したりしないだろう。
まして『早めに誰かが見つけてくれますように』とばかりに、わざわざ自宅近くの農道に埋める理由などどこにもない。)

精液の話に戻るが。当初は犯人に殺すつもりはなく、ケンカ?などでカッとなった末の、偶発的なものだったとしよう。

だが考えてみるとそれも何だか異様なことだ。合意の上の性交だとしたら、避妊具も使わず、16歳の女子高生に中出ししているのである。

もし“一発ヒット”したらどうするつもりだったのか。現代ならともかく、当時の農村で女子高生の妊娠が発覚したら、大変な好奇の噂のタネになったことは容易に想像がつく。

その発覚を恐れての殺害だとしたら、より犯人の身勝手さに恐怖するが、その場合はますます農道の死体埋没に理屈が合わない。同時に、強姦だった可能性も高くなるが、それとて農道に埋める理由にはつながらない。

●パンツを膝まで下げて強姦?

ちなみに強姦の可能性で思い出したので書いておきたい。


ズロースを引き下げて同女の上に乗りかかり姦淫しようとしたところ

(一審判決文)

ズロースも下げられた状態で発見されたことなどを総合して考察すると、被害者は死亡の直前強いて姦淫されたものと推認するに十分である。

(控訴審判決)


一審も控訴審も、死体のパンツが膝上まで下げられていたことに結びつけ「犯人はパンツを引き下げて強姦したのだ」としている。

善枝さんが履いていたパンツの生地が、どの程度の伸縮性があったかは知るすべもないが、パンツを膝まで下ろすということは両膝を縛るようなものであり、最も足が開かなくなる状態なのだ。そこに上から「乗りかかる」となると、パンツが邪魔になり過ぎる。大変無理のある状況と言う他はない。

死体の〈膝まで下ろされたパンツ〉は強姦殺人を装うための、犯人による稚拙な偽装としか筆者には思われない。

もちろん、判決文は石川氏による単独の強姦殺人と断定しているので、偽装工作の可能性などハナから除外しているが。

玉石や荒縄の謎めいた工作といい、何だかもう、犯人はまるでわざと(分かりやすい)血液型の証拠だけを残し「さぁどうだ、この謎を解いてみろ」と、挑発してるような感すら受ける。

ともあれ、これ以上は筆者には全然分からないし、以上は単なる想像のヨタ話だと思ってほしい。



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