10・脅迫状が手本に




「狭山事件 一問一答 冤罪論の疑わしさをめぐって」より



繰り返してくどいが、石川氏は取り調べの期間中、脅迫状を大量に書き写しさせられた(そのうちの一枚は6.参照)。それだけ書けば、脅迫状の字体や書き癖までマスターしてしまうのは、当たり前のことだ。

例によってPauli Wolfgangは、バ○の一つ覚えのごとく、


>逮捕される5年前に石川一雄が書いた上申書にも「つ」を「ツ」と書いたり、「ツ」を「川」のように書いたり、アラビア数字と漢数字を混ぜて「5月1日」を「五月1日」と書いたりする癖があらわれています。

としている。

これはあの悪名高き寺尾判決や、最高裁決定、石川犯人論者が耳にタコができるほど繰り返している。無理もない。石川氏の文章と脅迫状の共通点は、ほぼそれしかないのだから。

●選りすぐられた早退届

これが警察が筆跡対照資料とした、5年前に石川氏が書いたとされる4通の早退届(不鮮明な画像、御容赦)。


定型文がガリ版刷りで印刷され、空欄に早退の理由や日付を書き込むようになっている。一枚の理由欄は「ずツ(頭痛)」と書かれ、他の早退届の理由欄には「私用」と書かれている。

これは、捜査員が100通以上の早退届の中から、脅迫状の字に似たものを選りすぐったものだ。

それだけの中から探せば、誰が書いたものからでも、似た字が見つかっても不思議でないと思うのだが…ともあれ、この「ずツ」と「五月1日」を発見した捜査員らは、さぞや狂喜したであろう。

※100通以上の早退届とはずいぶん多く感じるが、当時東鳩の工場では、残業なしで定時に帰る場合は早退届を出させていた。石川氏は東鳩工場に3年半も勤めており、日割りをすれば一週間〜二週間に一通である。

「石川にはアラビア数字と漢数字を混ぜて使う奇癖がある」だから脅迫状と同じだ、と言いたいのならば、その隣の早退届に書かれた「7月24日」はどう説明するのか?そもそも脅迫状の抹消部分は「4月29日」なのだが?

また、石川氏が漢数字の「五」しか書けなかったのであれば、脅迫状と共通すると言えるが、その他の時間欄には「5」と書かれている。その石川氏の「五」にしても、脅迫状の「五」とは全く違う。
(拙稿〈当時のカナ表記について〉も参照されたし。)

「ずツ」の早退届だけを「どうだ!」とばかりに、デカデカと掲載しているが、他の3枚は逆に不確かな印象を与えてしまうので無視しているのだろう。

●本当に石川氏が書いたものなのか?

この項、筆者は一応Wolfgangの御説に合わせて、これら早退届を〈石川氏本人の自筆〉という前提で書いた。

だが実は、本当に石川氏が書いたものかどうかの裏付けは、何一つなされていない。

氏は東鳩時代についてこのように語っている。


「3年8ケ月程で、私は『クラッカー』という所の焼き上げの『責任者』にされてしまったのです。
本来なら喜ぶべきことながら、『責任者』になると、当日使用した物品などを『伝票』に書かねばならず、無学の私には『読めない』『書けない』で思いあぐねた結果、親友に恥を凌(しの)んで自分の無学を教え、……書いて貰(もら)っていたのです」

「東鳩のは欠勤届とかだが、私が書いた物じゃない(代筆してもらった)物もある」

(二審第27回公判調書)「狭山事件を検証する」狭山事件 詫び状 手紙 より


石川氏は、当時日常生活で字を書く必要に迫られた際、「友人知人に頼んで書いてもらった」旨の話をたびたび語っている。逮捕時の上申書に「わたくし」としか書けなかった氏が、本当に5年前に「私用」の字を書いたのか。

捜査員らが東鳩工場に現れたのは5月18日。捜査の目的はネーム入りタオルだったが、そこで彼らは早退届の存在を知る。

彼らが工場長の署名と共に4通の早退届を受け取ったのは、その3日後の21日。

石川氏の逮捕状はその翌日、22日に発布されているのだ。

本人の自筆かどうかの裏付け捜査など、時系列上からも、とうてい行なわれたとは考えられない。石川氏が書いたものならば氏の指紋も検出されるはずだが、そうした発表もない。

これら早退届は、ただ「名前が書いてあるから」というだけで〈石川本人の自筆〉とされたに過ぎないもの、と言えよう。


石川氏は焼き上げ担当の責任者に出世したものの、結局は字が書けないゆえに、3年8ヶ月も務めた安定した職場を退社することになってしまう。もし仮に氏が真犯人で、脅迫状を書ける文章力があったのなら、そもそもそんなことにはなっていないはずなのだが。
むろん、もし仮に別人の代筆であれば、上記の筆者の反論も無意味となるが。有罪論者が鬼の首を取ったように揚げる早退届は、実は根拠の薄弱なものである。

ところでどうでも良いが、「A.」にある「5年前に石川一雄が書いた上申書」とは何のこっちゃ?

まぁ「早退届」の間違いなのだろうが。ページの更新暦を見るとPauli Wolfgangはまめに修正をしているようなので、これも修正しておいた方がいいよ(笑)。




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