16・「盗みをする奴は人も殺す」




「狭山事件 一問一答 冤罪論の疑わしさをめぐって」より

確かに当時の石川氏は時々、あまり褒められないことをしていたようだ。その意味では「真面目」とは言いがたいであろう。

だが、氏は小学校に上がる前から水汲みや薪拾いをし、奉公や土方仕事など職を転々としつつも、逮捕されるまで家計を支えていたのだ。決してブラブラ遊び歩き、ゴクを潰していた訳ではない。

Wolfgangは、まるで氏がギャンブル狂だったかのように書いているが、一回につぎ込む額は数千円と、たしなむ程度のものだった。ギャンブルで借金を抱えてトラブルに、といった、よくある話はどこにも見当たらない。

そもそもWolfgangや『日録』作者がどれだけ、他人の些細な悪事をネチネチあげつらえる、高潔で御立派な方かは存じ上げないが。

●石川氏に前科は無い


>建築現場から木材を大量に盗み出したり、農家から鶏を盗んだり、茅を盗んだり、ジョンソン基地からパイプを盗んで売ったりしていたことは当人も認めています

鶏とジョンソン基地の件は、複数による共謀で、石川氏の単独犯行ではない。また、それ以外は石田一義氏の“言いつけ”に従ってやったことだ(これは石田氏がそう認めている)。
石川氏の逮捕容疑のうち、窃盗の一件「友人の作業着を盗んだ」は、その友人が「後で洗って返してくれ」と言って済んでおり、本来事件にもなっていない。

暴行傷害の一件「事故を起こしたオートバイの青年を殴った」は、その相手側の青年が非を認めており、これも事件にはなっていない。

警察はこれらのささいなトラブルを掘り返し、むりやり被害届を出させて、逮捕の口実としたのだ。


女子高生を誘拐して強姦・殺害・身代金奪取を画策―そんな大それた犯罪を犯す者なら、もっとそれに近い、前兆的な事件を起こしていそうなものだが、石川氏にそのような犯歴はない。そもそも石川氏には前科はない。

●犯罪傾向が進んだ?


>石川の盗癖は子供の頃から続いており、14歳のときから繰り返し警察の世話になっています

これと同じ物言いは『日録』なるページの、“(略)『石川一雄 獄中日記』(三一書房、1977年)を読む”にもある。その部分はこうだ。



石川一雄が窃盗の常習犯だったのは間違いない。しかも1963年5月23日付の供述調書によると、石川の盗癖は警察沙汰になった事件に限定しても14歳の頃から始まっており、かなり犯罪傾向が進んでいたことがうかがえる(p.174)。


石川一雄の人間像は、自分が得をするためなら他人の権利を意に介さない人間、法を破ることを何とも思わない人間と見るほかない。

(略)『石川一雄 獄中日記』(三一書房、1977年)を読むより

Wolfgangのページと、内容や表現が瓜二つだ。

資料から都合の良いところをつまみ出し「石川は子供の頃から窃盗の常習犯で、犯罪傾向が進んでいた」と、さも極悪人であるかのように尾ひれをつけている。
では公平?のために、そのP・174の供述調書を引いておく。


二、今までに悪いことをして警察の調べを受けたことは二回位あります 

最初のときは私が十四歳位のときに(中略)柏原の名前を知らない家から鳩を五、六羽位盗んだことで狭山警察署で調べられてお父っさんと浦和の裁判所に呼び出されましたが勘弁してもらいました。

その次はその翌年頃(中略)百姓家の物置から麦を三俵盗んで狭山警察署で調べられて浦和の裁判所に呼び出されましたが勘弁して貰いました。

この外に警察で調べられたことはありません

『石川一雄 獄中日記』P・174より


石川氏の少年時代の窃盗行為は2件である。しかも微罪の起訴猶予処分で、前科にはなっていない。

14歳から(善枝さんの事件で)逮捕されるまでの10年間、もし警察沙汰を起こしていたなら、それは必ず警察に記録されており、得意げに発表されただろう。

●狙いは“刷り込み”

『石川一雄 獄中日記』は77年の古い本で、再販もされておらず、気軽に閲覧しづらい状態だ。

このように、少年時代の犯罪をことさら取り出し、「窃盗の常習犯」だのと大げさに脚色されれば、たいていの人は元を確認することもなく「石川は子供の頃から犯罪者だったんだ。ならやっぱり、狭山事件の犯人は石川なんだな」と、刷り込まれるだろう。

それがWolfgangらの手合いの、目的なのは言うまでもない。

●200万件以上の殺人事件が?

以下は余談。
『日録』作者の発想では「盗みをした者は人殺しもする」そうだ。では法務省・犯罪白書のデータから引用しておこう。


窃盗の認知件数は、平成14年(2002年)に237万7,488件と戦後最多を記録

平成25年版 犯罪白書より


2002年は230万件以上の窃盗事件が起きている。『日録』作者の言う通り「犯罪傾向が進む」のなら、この窃盗を起こした人たちによって、10年後は200万件以上の殺人事件が起きていたはずだが?


殺人の認知件数は、平成24年(2012年)は1,030件(前年比21件(2.0%)減)であった

同上


あらら、殺人事件は200分の1以下ですよ。「盗みをした者は人殺しもする」とは限らない訳ですね。

とまぁこんな下らない応酬は、まともな読者の方にはさぞやヘキエキであろう。先方がバカバカしい屁理屈を言っているのだから、こちらもついバカバカしい屁理屈を返してしまう。

●「鶏を殺して食べたから殺人犯だ」

もののついでに、これも上記の『日録』から。“伊吹隼人『狭山事件―46年目の現場と証言』を読む”より。



小動物を殺す者は殺人に走りやすいという。腹が減ったからといって鶏を盗んで絞殺して食べる行為と、欲情したからといって女子高生をかどわかして犯して絞殺する行為は通底している。

現在の都会のように、24時間営業のスーパーやコンビニがあり、肉の切り身パックが手軽に買える時代のことではない。当時農村で鶏を食べるときは、自分で絞めて捌くのが日常、当たり前のことだったのだ。

そんなことも知らずに書いている、ただの無知ならどうでも良いが、それを「小動物を殺す者は殺人に走りやすい」とこじつける、これほどまで品性下劣な文章を、筆者は見たことがない。

(「動物を殺して食べる行為」について私見。『日録』作者は「こんな残酷な行為をした奴」とでも言いたげに書いているが、我々も、スーパーの肉を買ってそれを食べる以上、直接手を下さないだけでやっていることは同じである。)

それにしても、石川氏の窃盗の過去を、重箱の隅をほじくるように拾い出し、針小棒大に書き立てて「石川は極悪人の犯罪者だ!」と喧伝する、Wolfgangや『日録』作者らの、この凄まじいまでの“情熱”には全く頭が下がる(苦笑)。




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