9・誤字がある?




「狭山事件 一問一答 冤罪論の疑わしさをめぐって」より

「『時』が2本線だ」

「高学歴者が低学歴者を装って書いたというのはウソだ」「誤字がある。つまり脅迫状は低学歴者が書いたものだ」

と、Wolfgangがこだわる理由は何なのだろうか。もちろん「だから、脅迫状を書いたのは石川に決まってる」と、何が何でも印象づけたいためだ。

もっとも、脅迫状の文面だけをもって、犯人が高学歴者か低学歴者かを判断すること自体、どだいバカげた話なのだが。

仕方ないので、Wolfgangが貼っている画像をお借りして、「時」の字をよく見てみよう。

「狭山事件 一問一答 冤罪論の疑わしさをめぐって」より転載


なるほど、パッと見れば確かに「時」のつくりの「寺」の横線が、2本しか無いように見える。ではこの字は「『寺』の横線は2本」だと思っている人物が書いたものだろうか。

そうではない。2本目の横線は非常に短くて見づらいが、ちゃんと3本の横線を書こうとした形跡が伺える。



2本目の筆勢が折れ曲がってカーブになっているのがお分かり頂けるだろう。もし「横線が2本」だと思って書いたら、それはアルファベットの「Z」のような筆勢になり、このカーブは生まれないはずのものだ。

脅迫状に書かれた「時」の字は5個、どれもほぼ似たり寄ったりだが、中にはこのようにちゃんと3本線が書かれているものがある。

決定的なのは封筒に書かれた『少時』の「時」だ。ここでは殴り書きなれど、ちゃんと「時」が書かれている。

参考までに、石川氏の「時」。「晴」の字に間違えて覚えてしまったようだ。

何のことはない、2本線の話は単に「そう見える」だけのものをこじつけているだけだ。それでもバクゼンと読めば、こんな誤魔化しにコロッと騙されてしまうかもしれない。

「西武園」も誤字だとのお説。確かに「武」の字は点を打ってないように見える。

「狭山事件 一問一答 冤罪論の疑わしさをめぐって」より転載

だが上で見た通り「寺」の「土」の下線を、殆ど見えないほど省略して書く人物である。「江」の「さんずい」も、筆圧はちゃんと三画だが、つなげて書いているので見た目には二画にしか見えない。「園」の字に至っては、ずいぶんと苦しいこじつけだ。

いずれにせよ、これらをもって「脅迫状を書いたのは低学歴者」だとするのは、あまりに無理があるというものだ。


理路整然としている脅迫状

脅迫状の文体そのものは非常に高度なものだ。誤字が有る・無いで「低学歴者が書いた」と決め付けられるレベルのものではない。

以下は全文をテキスト化したもの(赤字は犯人?が訂正をしたところ)。


少時様) このかみにツツんでこい

 子供の命がほ知かたら(4月29日)五月2日の夜12時に、

 金二十万円女の人がもツて()さのヤの門のところにいろ。

 友だちが車出いくからその人にわたせ。

 時が一分出もをくれたら子供の命がないとおもい。――

 刑札には名知たら小供は死。

 もし車出いツた友だちが時かんどおりぶじにか江て気名かツたら

 子供わ西武園の池の中に死出いるからそこ江いツてみろ。

 もし車出いツた友だちが時かんどおりぶじかえツて気たら

 子供わ1じかんごに車出ぶじにとどける、

 くりか江す 刑札にはなすな。

 気んじょの人にもはなすな

 子供死出死まう。

 もし金をとりにいツて、ちがう人がいたら

 そのままかえてきて、こどもわころしてヤる。



「刑札」などのわざとらしい当て字を、本来書かれるべき字に置き換えたのがこちら。


この紙に包んでこい。

 子供の命が欲しかったら、5月2日の夜12時に、

 金二十万円女の人が持って、佐野屋の門のところにいろ。

 友だちが車で行くからその人に渡せ。

 時が一分でも遅れたら子供の命がないと思え。――

 警察に話したら子供は死。

 もし車で行った友だちが時間通り無事に帰ってこなかったら

 子供は西武園の池の中に死んでいるからそこへ行ってみろ。

 もし車で行った友だちが時間通り無事帰ってきたら

 子供は1時間後に車で無事に届ける。

 くり返す。警察に話すな。

 近所の人にも話すな

 子供死んでしまう。

 もし金を取りに行って、違う人がいたら

 そのまま帰ってきて、子供は殺してやる。


いかがだろうか。文章そのものは、余計なことを書かず要点を簡潔に伝えている。句読点の使い方も正確だ。

「子供の命がないとおもい。」は妙に感じるが、大野鑑定によると「い」と「え」の混同は埼玉県ではよく見られるという。

「ほら見ろ、脅迫状を書いたのは石川だ!」と、Wolfgangがキーッと目を吊り上げそうだが(笑)、この事件の真犯人が埼玉県内にいたのは、しごく当然のことだろう。

わざと書かれた「出」

ちなみに「ツツんでこい」と、ちゃんと「で」を書いているので「出」は偽装だと分かる。


「知」「江」「名」「気」「を」などの奇妙な当て字も、他の箇所では正しく書かれているので、字を知らない者が当て字をしたものではあり得ない。むしろ作為に満ちている。

「『は名知たら』と書いている!ひらがなの『し』が書けない人物だ!」とするなら、「もし」と書かれた箇所は見ていないのか。


「漢字の正確な意味を知らないため、その使い方を誤り、仮名で書くべきところに漢字を充てるなどして、(中略)特異な文を作った」

(控訴審判決)


と、のたまう寺尾裁判長は「私は何も調べてないし、見てません」と告白してるようなものだ。

「このかみにツツんでこい」は、実物では上部の余白に、慌てて付け足したように小さく書かれている。


脅迫状が警察の手に残ることに気づき、筆跡が証拠になるのを恐れて回収を図ったのだろうか。そのとき「で」を「出」に置き換えることまで、気が回らなかったのかもしれない。

そこで改めて、石川氏の文章である。そのままでは読みづらいので下にテキスト化した。



上申書 狭山市入間川2九08

 土工 石川一夫 24才

 いまわたくしにをたずねの五月1日のばんの

 ほりかねのなかだいさくさんのところいてかみを

 もでいてをどかしむすめのいのちがほしければ

 かねを20まいんお女のひとにもたして五月二日

 のごご12時にさのや(?)のまいまでとどけろといて

 きんに10まんいをとりそこねたことわわたくし

 のやたことでわありません

 五月23にち

 石川一夫

 狭山けエさツしちよおどの


そう言っては失礼だが、小学1年生くらいの子の書いた文章が、本当にこんな感じである。
「いまわたくしに〜」から「ありません」まで、切れ目がない。脅迫状のテキパキとした文体とはとうてい似つかない。

字が似てる似てないや、誤字があるのないのの話は嫌というほど目にするが、文体そのものをここまで意図して変えられるものなのだろうか。




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