■関連書籍紹介

「宮崎事件って何?」という世代が増えてきた昨今、今頃この事件に関心を持ち、資料に当たろうとする方がおられるとは思えないが、もしおられた場合のために、関連書籍を寸評と共にご紹介しておこう。

そういう趣旨なので〈初心者(?)が読んで事件の全体像を理解しやすいか〉を基準に、勝手にお勧め度を判定してみた。いくばくかでも参考になれば幸いである。


だが現在、以下の書籍はどれも絶版であり、入手して読むには古書店で捜すか、大きめの図書館で閲覧するしか方法はないだろう。その点はご了承頂きたい。


幼女連続殺人事件を読む:全資料 宮崎勤はどう語られたか?

都市のフォークロアの会編 / JICC出版局 / 1989



事件報道の渦中、いち早く出版された本。編者は大月隆寛氏。事件発生以降の新聞記事や識者のコメントを大量に集め、ミヤザキ報道そのものをトータルに俯瞰しようとしている。

マスコミが集団ヒステリーのように“おたく”やホラーバッシングへと、魔女狩り的に過熱していく状況を批判し、「このままでいいのか?」と、言外に呼びかけている感じだ。

ただし本書はあくまで“ミヤザキ報道をどう見るか”がテーマで、事件自体の考察ではない。まだ情報が錯綜していた時期なのでやむを得ないのだが。

20年以上を経た現在の目で見ると、荒っぽい作りではあるが、非常に濃密に当時の“空気”が凝縮されている本だ。事件の概要と言うよりは、ミヤザキ報道がどんなものであったかを知るのに、良い資料である。

お勧め度 : ★★★☆☆



Mの世代 : ぼくらとミヤザキ君

太田出版編 / 太田出版 / 1989



事件で肩身の狭い思いをするハメになり、マスコミ側から好き放題言われっぱなしだった“おたく”世代の側から「もの申す」本。

その主張には共感するが、この本自体はサブカル文化人?らによる評論集で、事件の資料となる性質のものではない。

この時期、宮崎事件に関連づけた世代論、若者文化論(おたく論?)は大量に語られた。そういったものが好きな方もおられるかもしれないが、筆者は事実関係にしか関心がないので、申し訳ないがこの類の評論本はパスしたい。

お勧め度 : ★★☆☆☆



君は宮崎勤をどう見るか

宮川俊彦著 / 中野書店 / 1989



著者は、国語作文教育研究所所長とのこと。宮崎事件の評論本だが、その視点は一風変わっている。

いわゆる識者のコメントや、宮崎の子供時代の作文を大量に集め、それを評論しているのだ。さすがは肩書き通りの方である。事件については冷静に分析しており、評論本としては良質な部類と思う。

読みどころ?は、宮崎事件に対する子供たちの感想文だ。少しだけ引こう。

「このままじゃロリコンだ!悪人にされた宮崎君のさけび」

宮崎は、ロリコンじゃなくて子ども好きなだけだと思います。(中略)とにかく私は、宮崎が、ロリコンではないと思いたい。〔小6・女子〕
(84ページ)

宮崎が聞いたら喜びそうなコメントだ。しかし小学6年生の女の子が「ロリコン」の語をどういう思いで使うのだろうか?

他にも、宮崎を擁護する意見が多いのは意外である(もっとも、著者がその手のものを選んで集めてるようだが)。下のコメントは、もし目の前で言われたら固まってしまいそうだ(笑)。

宮崎はなぜ四人の子どもを殺したかというと、自分の女がいないだけだと思います。〔小5・女子〕(103ページ)

お勧め度 : ★★★☆☆



倒錯:幼女連続殺人事件と妄想の時代

伊丹十三・岸田秀・福島章 / ネスコ / 1990



故・伊丹十三氏ら三名による鼎談集。顔ぶれはそうそうたるものなのだが、語り合っている内容は、彼は現実と空想の区別がつかなくなっただの、家族の断絶が原因だのと、言い尽くされた紋切り型の話ばかりである。

話題性のあるうちに、有名人を集めてチャチャッと出しちゃいました的な印象だ。事件の考察に役立つ本とは言えないだろう。

ちなみにこの中の一人、犯罪心理学者の福島章氏は、足利事件の精神鑑定で菅家さんを“小児性愛”と断定、有罪判決の後押しをしたとされる。この件について氏は、一切ノーコメントの姿勢を貫いている。

お勧め度 : ★☆☆☆☆



密室:女高生監禁殺害コンクリ詰め事件・幼女連続殺害事件

森毅・芹沢俊介・大塚英志 / 春秋社 / 1990



森毅氏、芹沢俊介氏と大塚英志氏らによる“トンデモ”対談、論考集。
弁護士によると、宮崎は拘置所で自分について書かれた本を殆ど読んでおり、どの本も不満だが、この『密室』だけは気に入ったという。

その理由は何となく分かる。マスコミがさんざん宮崎を異常殺人鬼と罵倒するなか、芹沢氏は彼を「宮崎勤君」と呼び、彼の犯行を批判的に書いていない、いや、むしろ美化しているからだ。

ほんの一節だけ引こう。

「幼女美の物語」の作者

「この事件は宮崎君による“作品”であり―」
(102ページ)「彼は幼児美映像の“作家”であった」(105ページ)

大の大人が正気で書いているとは信じがたいのだが、本当にそう書いてあるのだから仕方が無い。

大塚氏もトンデモ度では負けていない。氏は事件について〈遠野物語〉やユングまで持ち出したあげく、

「殺された女の子とM君のあいだにあったのは恋愛だったんじゃないのかなという気がします」(154ページ)

である。

筆者は冤罪派を「陰謀ごっこで事件をオモチャにしている」と書いたが、芹沢氏らは「評論ごっこで事件をオモチャにしている」だけだ。
人の価値観はさまざまではあろうが、筆者はこの本に一片の価値も見出せない。

お勧め度 : ★☆☆☆☆

トンデモ度 : ★★★★★



贖罪のアナグラム:宮崎勤の世界

蜂巣敦著 / パロル舎 / 1990



遺骨入り段ボールに入れられていた犯行メモ「真理 遺骨 焼 証明 鑑定」の字をローマ字で並べ替えると、別の文章が読み取れるという“アナグラム説”について考察している本。

ただし著者も書いている通り、これはあくまで「〜ではないか?」という“説”に過ぎない。宮崎自身は自分の文章にアナグラムを仕込んだとは一言もいっていない。まァ現在では「宮崎が仕込んだ」という伝聞が、すっかり事実として定着してしまったようだが。


他は宮崎事件の報道記事スクラップ集。「怪獣博士 187の肖像」は、宮崎の幼年時代から逮捕までの187のエピソードを網羅しており、圧巻だ。


資料本としてはお勧めの部類なのだが、いかんせん現在は殆ど古書で出回っておらず、入手は不可能に近いだろう。

お勧め度 : ★★★☆☆



宮崎勤裁判 上・中・下

佐木隆三著 / 朝日新聞社 / 1991〜1997



宮崎事件の第一審公判を全て傍聴し、記録したルポ。一般に手に入る事件資料として、これ以上はない第一級のものである。文庫版の方が入手しやすいだろう。

個人的な意見はなるべく控え、淡々と審理の進行を記録している。事実関係の審理は上巻に集中しており、中、下巻は精神鑑定がメイン。下巻のラストには判決文が全文収録されている。

録音機材は法廷に持ち込み不可なので、全ての発言を速記したという。それだけでも並大抵のことではない。この本がなければ、当サイトの作成も不可能であった。

もっとも、事件の詳細を知るには欠かせない本だが、よくご存じない方がいきなり読むと、あまりに専門的過ぎてキツイかと思われる。
事件の全体像を把握した後、より詳しく知りたくなったときに読むのがベストだろう。

ただ、ささいな点だが、事実と違う記述もいくつか散見される。佐木氏は綾子ちゃん事件の当日、有明テニスの森が定休日だったと書くが、実際は年中無休であった。もっとも、これだけの膨大な記録である。100パーセントの完璧を求める方が酷であろう。

お勧め度 : ★★★★★



今田勇子VS.警察

大和田徹著 / 三一書房 / 1991



当時宮崎事件に携わった、現役の新聞記者が書いた本。一般人は知りえない捜査の内幕や、報道機関の動きが、時系列に沿って詳細に描かれ、大変読み応えがある。古書の流通は殆ど無いようだが、もし入手できるなら、初心者向けにも良い資料本ではある。
ただしこの本の出版後、著者の大和田氏が「噂の真相」に記事を書いているのだが、その内容は自画自賛と他人の記事への中傷、当てこすりに満ちた、非常に不快なものであったことを申し添えておく。

この本の中で大和田氏は、警察が宮崎の部屋を“公開”した理由を「中年男と報道されていた犯人像を軌道修正する必要があったからだ」と書いているが、マユがツバでベトベトになる話だ。

神戸のサカキバラ事件をご記憶の方は思い起こしてほしい。あのときもさんざん“犯人は変質者の中年男?”の推測がニュースで報じられていたが、夜の10時頃、いきなり須磨警察署からの中継に切り替わり「14歳、少年A」の逮捕が発表されたのだ。

部屋の証拠物が荒らされるリスクを犯してまで、そんなどうでもいい“軌道修正”の必要などどこにあったのか。この部分は大和田氏の勝手な作り話である。

お勧め度 : ★★★★☆



Mのオカルティズム

蜂巣敦著 / パロル舎 / 1995



著者いわく続・贖罪のアナグラム。前作に続き、宮崎のアナグラム説を考察している。今回は丸ごと一冊宮崎勤で占められてはおらず、中盤以降はなぜか(いわく“もう一人のM”)三島由紀夫論となっている。

アナグラム説に関しては、書かれていることは前作とほぼ同じ。宮崎事件に関する本というよりは、蜂巣氏のオカルト評論集だ。

まァこれはこれで面白い本ではあった(特に興味深かったのは杉本五郎氏の話。戦前から戦時中の時代でも、やっぱりロリータマニアはいたのだなァ)。

お勧め度 : ★★☆☆☆



宮崎勤 精神鑑定書:「多重人格説」を検証する

瀧野隆浩著 / 講談社 / 1996



著者は毎日新聞記者。宮崎の精神鑑定書を中心に、独特な視点から事件を考察している。宮崎の生活歴や事件の経緯も分かりやすくまとめられ、その点は入門書?としてもお勧めである。改訂版(文庫版)の方が図版の追加や加筆もあり、お得かもしれない。

ただ、著者があまりにも単純に、宮崎の発言を信用し過ぎている点が気になる。性欲に関する問答を読んで「こんなに性的なことに嫌悪感を示す者が、あのような犯罪を犯すだろうか」と書いているが、宮崎が何度も幼女のパンチラや性器の盗撮をしていたことは、どう考えておられるのだろうか。

また、宮崎が多重人格であった可能性が高いとしているが、検証という程ではなく、鑑定での答えを鵜呑みにしている印象を受ける。


本物の多重人格症者は通常、別人格の出現をコントロールできない。友人、家族、刑事や鑑定人、拘置所職員にいたるまで、誰一人宮崎の“別人格の出現”など見た者はいないのだ。

26年間生きてきて、犯行を行なった一年間の間の数回だけ、都合よく人格変換したとでも言うのだろうか。そうした客観的な検証はなされていない。

事件の資料本としては良質だが、個人的に「多重人格説」にはとうてい納得しがたい。

お勧め度 : ★★★★☆



宮崎勤事件 夢の中:彼はどこへいくのか

小笠原和彦著 / 現代人文社 / 1997



当サイトで何度も俎上に乗せたので、説明するのもくどいが、著者は宮崎の冤罪を主張する市民団体「M君裁判を考える会」の会員である。

関連書籍の中で唯一、宮崎冤罪説を唱えた本で、彼らの主張の集大成と言える(もっとも小笠原氏自身はクロ説に揺れているのだが)。

当サイトの作成にあたり、様々に検証した結果、いかに彼らの冤罪説がいい加減な根拠とゴマカシで成り立っているかがよく分かった。
それについては後日、別項にてアップする予定である。


ちなみに、この本の支離滅裂さを象徴する部分を引用しよう。下の二つの文章はどちらも、同じ307ページに書かれているのだ。



「どっちなんだ!」である。こんな矛盾した記述は本書のいたる所に満ちている。

豊富に掲載された冒頭陳述書や手紙類は資料価値が高いが、所蔵している図書館は少なく、古書の流通も殆どないので、現在この本を読むのは相当困難であろう。

仮にこの本を入手できて読めたとして、「やっぱり宮崎勤は冤罪だ!」と思い込む人がいたとしても、それはその人の自由だ。どうぞ
お好きなように。

お勧めしない度 : ★★★★★



夢のなか

宮崎勤著 / 創出版 / 1998



「超有名人になったここらで、ひとつ本でも出すか」――宮崎本人がそう前書きで語っている。もうこれだけでこの本が、通常の獄中手記などではない“何か異様なモノ”であることを物語っている。

これを読んで宮崎という男や、事件の動機を理解しようと思ったら、それは全くムダな努力だろう。


「創」編集長の質問に“お答え”する形でやり取りされた、往復書簡で構成されている。とは言え一審裁判中に出された本なので、事件に関するストレートな質問は避けられている。

拘置所で何を食べたとか、どんなラジオ番組を聴いたとか、どうでもいい話ばかりだ。表紙には〈〜被告の告白〉とあるが、その意味では「何だこりゃ?」と、肩透かしを喰う本である。


笑ってしまったのは、ビデオサークルを除名されたときの恨みつらみを語っている箇所だ。サークルの代表者を口を限りに罵っているが、自分勝手な欲望で4人の幼女を殺した男から「非道徳」だの「常識知らずの輩」と罵られるのはどんな気分なのだろうか(笑)。

事件について多少は触れているものの、肉物体をおじいさんに捧げてどうしたこうしたと、メンヘルな妄想を語るばかりで、とても資料本として云々できる代物ではない。

筆者的には殆ど価値のない本だが、それでも事件のまさに当人が、自らの言葉で語っているという意味では唯一の物ではある。

お勧め度 : ★★☆☆☆



夢のなか、いまも

宮崎勤著 / 創出版 / 2006



前作『夢のなか』に続き、最高裁で死刑判決が言渡された時期に出版された。

「創」編集長と、装丁やデザインについて「今回は明るい表紙(うすピンク)にしましょう!」等と、まるで友人と同人誌でも作っているかのようなノリでやり取りした手紙が残っている。
前作同様、事件については相変わらず自分勝手な理由付けをして、他人事のように語るのみだ。一言でいって反吐の出る本である。

実際、一度は購入したが捨ててしまった。お陰でこのサイト作成のために、古本で買い直すハメになったが(苦笑)。こんな文章が載っている本を、身近に置いておくことに耐えられなかったからだ。


(前作『夢のなか』刊行後、「死刑判決をニュースで知って号泣した」と手紙を送ってきた者に対して)

「心配することはないのに。何かの間違いなんだから。そんなことより、私の初の単行本『夢のなか』の感想もっと送ってよ。第2弾の本に生かすんだからさあ」

何だかもう、こちらが悪い「夢のなか」だ。

本当は星などつけたくないのだが、控訴審での被告人質問のやり取りが、僅かながら掲載されている。幼女殺害の様子を語ったその部分は生々しく、かろうじて資料性があると言える。

お勧め度 : ★★☆☆☆



M/世界の、憂鬱な先端

吉岡 忍著 / 文藝春秋 / 2001



ノンフィクション作家、吉岡忍氏の力作。佐木隆三氏の『宮崎勤裁判』は、裁判関係の難解な専門用語に少々苦労させられてしまうが、こちらは平易な文章で書かれ、大変読みやすい。

「宮崎事件の全体像について分かりやすく書かれた本は?」と聞かれたら、この本をお勧めしておきたい。文庫化もされたので、入手は比較的容易であろう。ただし、宮崎の行動の描写などは、かなり吉岡氏の主観で書かれている部分が多い。

なお、宮崎事件について書かれているのは全体の三分の二まで。残りは神戸のサカキバラ事件のルポとなっている。

お勧め度 : ★★★★★



宮崎勤事件:塗り潰されたシナリオ

一橋文哉著 / 新潮社 / 2001



筆者が一橋文哉という著者の“正体”に気づく前であったら、この本も初心者向けに分かりやすく書かれた、お勧め本として紹介していたかもしれない。

だが今、この本の説明に使うべき表現は“ペテン師によるデマ、パクリ本”しかないだろう。ネットに出回っている「スウィ―トホ―ムのビデオ」捏造話のネタ元でもある。この本のペテンぶりは、こちらで検証済みだ。
こんな本に星などつけるのもバカバカしいが、掲載されている図版は本物の捜査資料であり、そこだけは唯一貴重で資料性が高いので、一個だけつけておくことにしよう。

お勧め度 : ★☆☆☆☆

インチキ度 :



宮崎勤精神鑑定書別冊:中安信夫鑑定人の意見

中安信夫著 / 星和書店 / 2001



宮崎に対する精神鑑定での一問一答を全て収録した本。精神鑑定書は本来裁判用の資料であり、このような形で出版されることは極めて異例である。

ほんの少しでも、精神鑑定でのやり取りをお読みになった方は分かるだろうが、宮崎の答えは奇怪な禅問答のようなものばかりだ。これを第三者が読んで、彼の内面を理解するのはとうてい不可能だろう。
最終的に中安鑑定人は「犯行時、精神分裂症で心神耗弱だった」と結論を出すが、ご承知の通り判決では却下されている。

精神分裂症で善悪の判断がつかない状態での、発作的な犯行などではないことは、事件の経緯を調べれば子供でも分かることなのだが。

これは事件ルポではなく、専門的な学術書である。定価も¥15,000円とモノスゴイ値段だ。事実関係の詳細な資料ならば、筆者は大枚をはたいても購入したいが、彼の精神鑑定については殆ど関心がないので対象外としたい。

犯罪心理学について勉強したい、もしくは宮崎のメンヘル語りに興味がある、という方にしかお勧めできない。

お勧め度 : ★☆☆☆☆




宮崎勤を探して

芹沢俊介著 / 雲母書房 / 2006



芹沢氏による宮崎事件の論考集。上記『密室』の文章も収められている。氏の宮崎事件への見解はおおむね以下の二つだ。


「この事件は『最後の性犯罪』である」(幼児が性的対象となったら次は赤ん坊しかなくなるから、とのこと)

「この事件は『殺意なき殺人』である」

筆者の頭が悪いせいであろうが、これらの意味がサッパリ理解できない。

何を言っているかが、ではなく、こんなことを事件評論として出版し、世に問うことの意味がどこにあるのかが分からないのだ。芹沢氏は他にもこう書いている。


「幼女への接近と殺害は母体への回帰であった」(51ページ)

(オウム事件やサカキバラ事件は『新たな時代精神の到来を告げる事件』だとし、)「宮崎勤は時代精神に導かれるようにして、幼女に近づいたのである」(237ページ)

ハッキリ言ってこの本は、事件をネタに、言葉遊びを羅列したマスターベーションだ。こんな自己満足にわざわざお付き合いしようというヒマ人の方以外は、お金と時間をドブに捨てる本でしかない。


宮崎事件以降も、不可解な猟奇事件が起きるたび、社会の病理だの、家族のあり方だのを評論する本が出版される。むろん多くは、事件から何らかの有用な教訓を引き出し、社会に役立てようという趣旨からのものであろう。

だが結局、この事件以降我々が到達したのは、子供にGPS携帯を持たせ、街のあちこちをカメラで監視する、相互不信を絵に描いたような息苦しい監視社会だけだったようだ。

お勧め度 : ★☆☆☆☆



■番外編
以下は番外編としてご紹介。宮崎事件をメインとして扱ってはいないが、参考になると思われる本をピックアップした。


殺人現場を歩く

蜂巣敦・山本真人著 / ミリオン出版 / 2003



タイトル通り、様々な殺人事件が起きた現場の写真と、蜂巣氏のルポによる本。宮崎事件の現場も訪れている。

一見何の変哲もない風景写真なのだが、「あの事件が起きた現場」として見ると、何やら禍々しいものを感じてしまうのが不思議だ。
〈世田谷一家惨殺事件〉や〈井の頭公園バラバラ事件〉等の未解決事件の項に、なぜか特にそれを感じる。着眼点はなかなかユニークだ。

宮崎関連のページは僅かだが、各種事件ルポとして面白い本である(ちょっと不謹慎?)。
お勧め度 : ★★☆☆☆



捜査一課秘録

三沢明彦著 / 光文社 / 2004



当時の読売新聞記者、三沢明彦氏による事件ルポ。半分以上がオウム事件のルポだが、宮崎事件にも約20ページほど触れられている。

宮崎の自供をキャッチしたマスコミと警察の攻防(?)、マスコミが宮崎の部屋に入った状況など、臨場感あふれるタッチで描かれている。ただし事実の記録と言うよりは、どちらかと言うと事件を題材にした小説に近い。

記者クラブ詰めの者のサガなのだろうが、まるで刑事達をヒーローのように描写しており、警察に批判的な記述は一切ない。まァ読み物としては面白いが、それ以上ではないという感想だ。

お勧め度 : ★☆☆☆☆



法廷絵師は見た!

大橋伸一著 / ベストセラーズ / 2005



裁判のニュース映像でお馴染みの法廷画。その法廷画を描き続けた故・大橋伸一氏のメモと共に、41人の被告人の絵が掲載されている。むろんその中の一人に宮崎勤がいる。

ニュースに間に合わせるため、時間との勝負で描くとのこと。だがラフなタッチの中に、被告人の内面までもがにじみ出ているのは実に見事である。
本のコンテンツそのものなので、さすがに画像は掲載できないが、機会があれば一読して損はない。

お勧め度 : ★★☆☆☆


殺人者はいかに誕生したか:「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く

長谷川博一著 / 新潮社 / 2010

最高裁の死刑判決直後に接見した臨床心理士、長谷川博一氏の著作。宮崎が外界の人物と最後に接触した際の様子を伝える、唯一の本。

接見室で、相変わらず頬杖をついて目を合わさず、死刑判決を「何かの間違い」としか言わない宮崎。最後まで、自分を取り巻く現実を拒んだ男の姿がそこにある。

もっとも宮崎に関しては本書のごく一部。他の名だたる凶悪犯との、臨床心理士ならではの視点による面談が興味深く、読み応えのある本である。

お勧め度 : ★★★☆☆




■紹介書籍一覧
幼女連続殺人事件を読む:全資料 宮崎勤はどう語られたか? 都市のフォークロアの会編 / JICC出版局 / 1989
Mの世代 : ぼくらとミヤザキ君 太田出版編 / 太田出版 / 1989
君は宮崎勤をどう見るか 宮川俊彦著 / 中野書店 / 1989
倒錯:幼女連続殺人事件と妄想の時代 伊丹十三・岸田秀・福島章 / ネスコ / 1990
密室:女高生監禁殺害コンクリ詰め事件・幼女連続殺害事件 森毅・芹沢俊介・大塚英志 / 春秋社 / 1990
贖罪のアナグラム:宮崎勤の世界 蜂巣敦著 / パロル舎 / 1990
宮崎勤裁判 上・中・下 佐木隆三著 / 朝日新聞社 / 1991〜1997
今田勇子VS.警察 大和田徹著 / 三一書房 / 1991
Mのオカルティズム 蜂巣敦著 / パロル舎 / 1995
宮崎勤 精神鑑定書:「多重人格説」を検証する 瀧野隆浩著 / 講談社 / 1996
宮崎勤事件夢の中:彼はどこへいくのか 小笠原和彦著 / 現代人文社 / 1997
夢のなか 宮崎勤著 / 創出版 / 1998
夢のなか、いまも 宮崎勤著 / 創出版 / 2006
M/世界の、憂鬱な先端 吉岡 忍著 / 文藝春秋 / 2001
宮崎勤事件:塗り潰されたシナリオ 一橋文哉著 / 新潮社 / 2001
宮崎勤精神鑑定書別冊:中安信夫鑑定人の意見 中安信夫著 / 星和書店 / 2001
宮崎勤を探して 芹沢俊介著 / 雲母書房 / 2006

番外編

殺人現場を歩く 蜂巣敦・山本真人著 / ミリオン出版 / 2003
捜査一課秘録 三沢明彦著 / 光文社 / 2004
法廷絵師は見た!大橋伸一著 / ベストセラーズ / 2005
殺人者はいかに誕生したか:「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く 長谷川博一著 / 新潮社 / 2010


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