長兄氏の奇妙な発言

中田家の長兄氏の発言・行動には奇妙なものが多い。その最たるものは脅迫状発見時の、異常に早い届出なのは、詳しい方はどなたも御存知だろう。

今回も資料を読み返してみて、善枝さんの死体発見に関するコメントに、妙に引っかかるものを感じてしまった。


(略)わたしは推理もしました。その結果、犯人は土工に違いないと思っています。というのは、死体の埋め方です。

ふみ固められた農道を掘り返し、しかも、中に死体を入れておきながら、現場は土が少しももり上がっていない。
いったい、このあまった土をどこへ持っていったか‥‥おそらく土工なら処分するのは簡単だったに違いない。

(63年7・8『週刊文春』)


そうして「わたしは石川の犯行と信じて疑わない」と続く。石川氏が土工の経験もあったことを踏まえているのだろう。

●なぜ長兄氏は

5月4日の山狩り捜索時、消防団員が農道に不審な地割れを見つける(これも『第一発見者が複数いる』など、奇怪な情報があるのだが、ここでは割愛)。
試しにそこを掘ってみたところ、善枝さんの死体が発見されることになる。

長兄氏は、死体発見の報を受けて現場に駆けつけたので、掘り返される前の状態は見ていないはずである。

それなのになぜ「現場は土が少しももり上がっていない」と、まるで自分が最初に見たように語っているのか?
あまった土をどこへ持っていったか」は、周囲に残土が無かったことを知っていなければ、出てこないセリフだ。

もしかしたら写真を見たのかも知れぬが、そこに死体が埋まっているとは、掘ってみるまで誰も分からなかった訳で、掘り返す前の状態が撮影されていたとは思えない(未開示証拠類の中にあるのやも知れぬが、不明)。



(この写真を見たのだろうか。だがこれは捜索前ではなく、元通りに埋め戻された、事件から2ヵ月後の実況検分時の写真。)

まあ、長兄氏にあらぬ疑いをかけるつもりはないので、氏に有利に解釈すれば〈掘り返される前の状態を誰かから詳しく聞いて知っており、それを自分が見たかのように話しただけ〉なのであろう。

●長兄氏の沈黙

善枝さんの姉が農薬自殺?をした際、周囲に転がっているはずの農薬のビンは無く、中田家の農薬ビンは警察が来る前に「きれいに洗われていた」という。
普通ならこれは証拠隠滅ととられても仕方ないはずのことだ。

その他にも、長兄氏を始め中田家の人間の言動、行動には、常識的に見ても不自然、不可解なものが多い。「何かを隠している」と思われても無理からぬことばかりだ。

そのためであろう、狭山事件推理の中にはいわゆる『長兄犯人説』が一定の比重を占めている。亀井トム氏などは、著書の中で名指しで“告発”しているほどだ。

長兄氏はそうした犯人扱いに耐えかねたようで、現在に至るも、一切の取材を拒否している。

その気持ちは分かる気もするが、もしも筆者が同じような立場で、あらぬ疑いをかけられたとしたら、洗いざらい自分の知っていることを話すだろう。身の潔白を証明するにはそれしか無いからだ。

長兄氏の筆跡は脅迫状とは全く違うし、善枝さんが殺されたと思しき時間帯は、姉と農作業をしてたり、学校の用務員さんに行方を尋ねたりしているアリバイがある。そうした有利な状況があるのだから、そんなに頑なになることは無いと思うのだが。

もしかしたら、事件とは全く関係ない次元で、どうしても他人には明かせない事情が絡んでいるのかも知れない。そうだとしたら、筆者のような赤の他人が興味本位で突っつくのは、下衆の勘ぐりというものだろう。

長兄氏が「石川が犯人だ」と、今でも固く信じているのならそれは仕方がない。が、それにしても、である。

もし自分の身内が何者かに殺害されたとしよう。逮捕された犯人が、事件と関係ない別人である疑惑に満ちていたとしたら。

真犯人は逃げ延びて、ほくそ笑んでいる訳である。少なくとも筆者なら耐えられない。真実の解明を切に望むだろう。




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