小池壮彦「宮崎勤――疑惑の死刑執行」を検証する
―その1―


前書き




疑惑の死刑執行」より

「みんな事件の実態をよく知らないから教えてあげよう」ということらしい。有難いことだ。

だがそれが以下に書くように、随所にウソや捏造がちりばめられたモノでは、有難いどころか悪質な行為と言わざるを得ない。
では、順を追って検証していこう。



限られた地域?




疑惑の死刑執行」より

段ボール中の葉や小石などが、埼玉県内の4市町村に「しか」分布していないもの、と書かれている。だがこれの元の記事はそのような表現はされていない。

(毎日新聞89年7月26日) 

ここでは埼玉県内4市町村「など」である。「など」と「しか」では、意味が全然違うと思うのだが……

文筆業に携わる方にしては、少々いかがわしい引用の仕方だ。

本当に“限られた地域に「しか」分布していないもの”が含まれていたなら、それは有力な手がかりとして、もっと大きく報道されたはずである。

下は当時、捜査を指揮した、埼玉県警刑事部長のレポートより。

「捜査研究」(東京法令出版/2011・5月号)より

何ともバクゼンとした推定だが、“限られた地域に「しか」分布していないものが含まれていた”などと書かれた資料は、他に全く見つからない。

だがまァ、この程度の書き換えは、他に比べればまだ可愛いものだ。



参考までに、地理の位置関係。くだんの4市町村は赤色で示した。


飯能市を中心にしたなら、宮崎宅は十分該当地域に含まれる。植物や土砂の分布が、県境を隔てたら突然別の種類に変わる訳がないからだ。

当初の3事件は埼玉県内での発生であり、捜査は埼玉県警の管轄地域で行なわれた。このような発表になるのは当然である。




宮崎宅の所在地。

(ZENRINブルーマップ2010より)

宮崎宅は、秋川の川辺からほんの十数メートル入った所(ピンク部分。現在は公図でも駐車場と書かれている)。

>ちなみに畑から人骨は発見されなかった

そのように何度も書かれるのなら、下の記事がウソで捏造だということを、小池氏は証明する責任があるのではないか。

                               (毎日新聞89年9月9日)                 (読売新聞89年8月25日)


リーガルサイズ?




疑惑の死刑執行」より

正確には、リーガルサイズと寸法が酷似していたのは〈犯行声明〉ではなく〈告白文〉の方。

「リーガルサイズでは都合が悪いために辻褄を合わせた」と、訳の分からないことを書いているが、捜査陣は3月20日の時点ですでに、「リーガルサイズは偽装では?」と疑惑を抱いていたのだ。辻褄を合わせる理由がどこにあるのだろうか。


(朝日新聞89年3月20日)

コンビニや文具店でコピーをした場合、A4、B4といった規格サイズでしかコピーできない。〈犯行声明〉や〈告白文〉はそのどのサイズでもなく、疑問を持たれていた。

だが何のことはない、宮崎が自宅の紙を適当に裁断して使っていたのだ。意図的にリーガルサイズに似せたかどうかの真偽は不明だが。

(朝日新聞89年8月16日)



8ミリビデオ?




疑惑の死刑執行」より

この件は「まとめ」の冒頭で触れた。

レシートの、物証としての存在を認めていながら、単なる冒頭陳述書の誤記の揚げ足を取っているだけのこと。

(毎日新聞89年8月20日より)

何度も貼って恐縮だが、宮崎がこの通り、綾子ちゃん殺害当日にマックロードカメラを借りたのは動かない事実だ。

このように、冒頭陳述書の誤記の揚げ足を取っては「冒陳は事実と違う。だから冤罪だ」と誘導するのは、〈M君裁判を考える会〉が十八番で使うペテンのテクニック、もしくは彼らの無知だ。

全く誤解をしているようだが、冒陳とは単なる、検察側の一方的な主張に過ぎない。冒陳イコール事実ではないのだ。検察官の誤記は珍しいことではない。

検察側立証の矛盾点を弁護側が反証し、双方が法廷で証明し合うのがすなわち「裁判」である。冒頭陳述で事実が100パーセント解明されているなら、裁判などする必要がない。


黒いプレリュード?




疑惑の死刑執行」より

確かに今野さん宅に段ボールが置かれた夜、不審な黒いプレリュードが目撃されている。だがそれは「ゆっくり走っていく」のが目撃されただけだ。

問題の車から人は降りていない。しかも時間は深夜の午前3時。“体格のいい男”など誰も見ていないのだ。

(毎日新聞89年2月23日)

もっとも、その“黒いプレリュード”の顛末はこんなものであった。

                                (読売新聞89年9月16日)

また、同じ時間帯に不審な「白いワゴン車」も目撃されたが、こちらは翌日早々に無関係と判明。

                 (毎日新聞89年2月8日)                (朝日新聞89年2月7日)



「話を聞いた」

プレリュードの件の後、冤罪説では定番の〈カローラIIの証言〉の話が続くが、そちらは「脱輪に関する証言」の項で検証した。




疑惑の死刑執行」より

“この証人”とは、脱輪現場で「カローラIIを見た」と言った二人のこと。

小池氏はこの件になると、何度も「二人は公判に呼ばれなかった」と書くが、実際は二人が出廷を拒否したのである。

ちなみにこの二人だけでなく、証人申請された宮崎の学生時代の友人らも、全員出廷拒否している(宮崎と付き合いがあったことを知られると世間体が悪い、等の理由で)。
>警察が圧力をかけたという話を聞いたので

まるで飲み屋でウワサ話でも聞いたノリで「話を聞いたので」などと書かれても困ってしまう。こんな重要なことを書くからには、ソースとなる根拠を示すべきであろう。




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