■宮崎事件ガセビア


“ガセビア”なる言葉もボチボチ説明が必要かも?2003〜06年まで放送されたフジテレビの人気番組、『トリビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜』の1コーナー『ガセビアの沼』より拝借した。

“トリビア”が一行雑学なら“ガセビア”は一行ガセネタ、といったもの。このようなもののことである。

宮崎事件についても、ネット上にはいくつかの、まことしやかな一行ガセネタが漂っている。それらの真偽も検証しておこう。

●「宮崎死刑囚の最期の言葉が『あのビデオまだ途中なのに…』」はガセ
●「宮崎勤のIQは137」はガセ
●「ウルトラセブン12話は宮崎所有のテープから全国に広まった」はガセ
●「小峰峠で幼女を追っていた宮崎勤」はガセ
●「日産ラングレーは宮崎事件の影響で生産中止になった」はガセ
●「ホラー映画『リング』の指差し男は宮崎勤がモデル」はマジ
●「宮崎勤には手のひらが上を向かない障害があった」はガセ?
●「野本綾子ちゃんは『つくば母子殺人事件』の犯人の姪」はガセ
●「『殺人者を判別する心理テスト』は宮崎勤が考案」はガセ
●「89年のコミックマーケットでTVアナウンサーが『ここに十万人の
 宮崎勤がいます』と報じた」はガセ?


●「宮崎死刑囚の最期の言葉が『あのビデオまだ途中なのに…』」はガセ

元の出所は2chのネタ書き込みである。


http://2ch-archives.net/uni.2ch.net-sousai/1-1213709046/より

死刑執行の様子が極秘に録音され、後にラジオ放送された、昭和20年代の大谷死刑囚(正しくは“大谷高男”)などは、実際に上の言葉を遺している。
このように事実とネタを混同させているので、少々タチが悪い書き込みだ(もっとも、2chではタチの良い書き込みの方が珍しいが)。

宮崎勤の最期の言葉など、何も伝えられていない。それを物足りないと思った?誰かが、いかにも“宮崎らしい”セリフを想像してデッチあげたものだ。
筆者も正直、これを見たとき「よく考えつくなァw」と、不謹慎にもクスッと笑ってしまった。

実に“ソレっぽい”ため、「これをネタじゃなく事実と思いこむ人がいるかもな」とも思ったものだが、どうやらその後、本当に、まことしやかな事実として流布しているようだ。

元国会議員、故・柴野たいぞう氏の告発手記「検察に死の花束を捧ぐ」(2012)に、こんな一文がある(氏は2010年の約半年間、東京拘置所に拘留)。


ある日、運動に行くためにD棟の廊下を歩いていた。ある房の前を通ると、外から電気のコードが引いてあり、房内の人がなんとテレビ画面を観ているのである。

おそらくビデオか
DVDを観ているのであろう。いったいどういうことなのか。詰所の前で担当に「私にもビデオを観せてよ」と言ってみた。すると、担当の表情が変わった。

「ダメだよ、確定者じゃなきゃ‥‥」(133〜134ページより)



確定死刑囚にはささやかな娯楽として、月に2〜3回のビデオ鑑賞が許されている。その日になると、職員が独居房に台車でテレビとデッキを運び入れ、予めリストで選んだビデオを鑑賞させる。見終わったら、死刑囚が報知器を押して終了を知らせるシステムだ。

また、死刑は当日の朝、朝食後1〜2時間以内に執行される。そのときは死刑囚が暴れたり、逃走を図るのに備え、特別警戒配置となる。
執行の日にビデオ鑑賞などさせる訳がない。よって、途中で中断して刑場に連れて行くこともあり得ない。

「あのビデオまだ途中なのに‥‥」という状況になど、なりようがないのだ。全くのガセネタである。

死刑囚をテーマに扱ったコンビニ本(?)ではしょっちゅう、この2ch発のネタを丸写ししている(筆者は2、3冊見かけた)。この項目を書いている現在、一番の近著が以下の本だ。


「歴史的大犯罪者が遺した狂気の言葉96」 ダイアプレス (2013/3/22) より

この手の本で「あのビデオまだ〜」を宮崎の最期の言葉として載せていたら、「またバカな編集者がネタを真に受けてるよw」と、笑ってやればよい。



●「宮崎勤のIQは137」はガセ

詳細は拙稿「宮崎勤の自作パズル」にて。

夕刊フジの真っ赤なウソ記事なのだが、やはりあそこまでデカデカと見出しに書かれると、そのインパクトに、記事の内容など関係なく刷り込まれてしまうのかもしれない。

ネット上に広まってるデマでは、宮崎のIQは131〜135とバラつきがある。精神鑑定での実際のテスト結果は、100〜90の平常レベルである。



●「ウルトラセブン12話は宮崎所有のテープから全国に広まった」はガセ

円谷プロ製作の特撮作品「ウルトラセブン」の12話は、諸事情で40年以上経た現在も、再放送も公式なソフト化もされず、封印状態が続いている‥‥といった説明は今さらするまでもないだろう。

宮崎の12話所有が報道された当時、すでに特撮マニアの間で「キミの12話ビデオは宮崎のコピーかも‥‥?」と、都市伝説風に語られていたものだ。


1980年代、まだ映像記録メディアはビデオテープだけであった。ビデオをダビングするには、一台のデッキで再生し、もう一台のデッキでそれを録画するしかない。

アナログの磁気テープは様々なノイズが入り、ダビングしたテープの画質は劣化する。そのテープから孫、ひ孫と、ダビングを重ねていけばいくほど、映像も音声も見るに耐えないほど劣化していく。

宮崎が自分のテープから、同時多発的に大量にダビングしない限り、(鑑賞に堪える画質のものを)全国のマニアに行き渡らせることなど不可能なのだ。

彼がそんなことをする訳がなく、しかも宮崎は、“切り札”の12話は「よほどのことがない限り」ダビングには応じないと、自分で手紙に書いている。(「ビデオ仲間にあてた手紙」のC参照)


もちろん実際に彼と取引した人が何人かはいるが、全体としてはごく僅かであり、とても「宮崎が流出元」とまでは言えない。

ちなみに、宮崎があちこちの雑誌の投稿コーナーで、12話所有を自慢していた85〜86年頃は、とっくに12話ビデオはマニア間に多量に流通していた。
アニメ雑誌『ファンロード』85年の号には「12話を流出させないでほしい」旨の、円谷プロからのお願いが掲載されたほどだ。


ファンロード(ラポート社)1985年7月号より

時間的にも、これらが宮崎所有のテープ一本をマスターに出回ったなど、あり得ない話である。



●「小峰峠で幼女を追っていた宮崎勤」はガセ

下のような怪談めいた都市伝説が、ネット上にゴロゴロしている。


つとむ

男女数人が、ある夏の夜に肝試しに行くことになった。 場所は心霊で有名な山の中のトンネル。怖がりながらも無事トンネルを抜け、帰路につこうとした時・・・

繁みの中からランドセルを背負った女の子が何かを叫びながら走ってきた。暗い山道でランドセルの少女・・・とあまりにも非日常的なことに運転手はビックリして、車を飛ばして逃げた。

そこから、1キロ程進むと帽子を被った男が立っておりその男は車の前に立ちはだかった。
「どうしました?」ヒッチハイクかと、運転手は男に話しかけた。

「娘がこの辺で迷子になったんだけど見ませんでした?」 後部座席の女性が、なんだ迷子だったのかと、ランドセルの少女の居場所を教えてあげた。そこから一行は何事もなく無事家路についた。

数日後、運転していた男性がテレビのニュースを見ていると、どこかで見たことのある顔だった。なかなか思い出せず、しばらく考えていると…

「あっ!山道で会った帽子の男の人だ!」

そして…その男の名前は……

宮崎勤
連続少女誘拐犯で、少女を食べたり、遺体の一部を、親族の元に送った、異常犯罪者だったのだ。

http://kyouhutoshidensetu.blog113.fc2.com/blog-entry-2.htmlより転載


どこから突っ込めばいいやらな話だ。
被害者の幼女らは全員当日の夕刻に殺されており、夜間に宮崎に追われて、山中を逃走したりなどしていない。

また、ランドセルを持ったまま誘拐された子も一人もいない(ランドセルの無い別バージョンも各種、流布している)。

「心霊で有名な山の中のトンネル」で、例の小峰峠と結びつけているのだろうが、実際の殺害現場と小峰トンネルは2キロ程も離れている(詳細は拙稿「小峰峠の幽霊」参照)。

→これなどは舞台が“夜中の富士山”だ(笑)。
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/1411/kaidan.htm

とまァ、そんなツッコミはどうでもいいのだが、被害者の幼女らも幼くして理不尽に殺された上に、こんなバカ話のネタにされるとは不憫でならない。

宮崎勤そのものが、言わば奇怪な、都市伝説的人物のイメージがある。だからこのような話の、恰好のネタになるのだろう。



●「日産ラングレーは宮崎事件の影響で生産中止になった」はガセ

89〜90年当時、日産は全国の日産販売店の統廃合と、車種整理のリストラを行なっていた時期であった。1989年、日産チェリー東京販売株式会社が、日産プリンス東京販売に統合。

1980年発売のラングレーは10年間、モデルチェンジをしながら販売されていたが、もともと販売台数は芳しくなく、無意味な姉妹車の生産コスト削減のため、事件が報道される以前に、すでに車種統合の対象になっていた。

ラングレーのテレビCMも、事件報道の一年前、1988年9月のF1レーサー・鈴木亜久里バージョンで終了している。

90年8月、パルサーがN14型にモデルチェンジしたのを機に、ラングレーは姉妹車・リベルタビラと共にパルサーに統合され、絶版となった。

「宮崎事件でのイメージ悪化のため」と、よく語られるが、実際はその後も1年に渡り販売されている。元から予定されていた生産終了が、事件と結び付けられただけである。




●「ホラー映画『リング』の指差し男は宮崎勤がモデル」はマジ

98年公開の大ヒットホラー映画「リング」。劇中「見たら一週間後に死ぬ」という“呪いのビデオ”が、重要なギミックとして登場する。
呪いのビデオの中に、不気味な〈頭から布を被って指を差す男〉が現れるが、これは宮崎勤がモデルなのだという。

てっきりこの話もガセネタと思ったのだが、監督の中田秀夫氏や脚本の高橋洋氏ら関係者が、インタビューや著書でそう語っており、このページでは珍しく?事実のようだ。

宮沢湖霊園での実況検分で、衣類を被ったまま指を差す宮崎の姿が禍々しく、呪いのビデオ映像のヒントにしたとのこと。

                                     (NNNニュースより)                   (東宝映画「リング」より)



●「宮崎勤には手のひらが上を向かない障害があった」はガセ?

宮崎が幼少期に「橈尺骨癒合症」と診断されていたのは事実のようで、その意味ではガセとは言い切れないかもしれない。従って見出しには「?」マークをつけざるを得ないのだが。

宮崎の生い立ちを語る文章で、この件はたいてい、周知の事実のように書かれる。だが周囲の人間の殆どが障害には気付いておらず、「学校では手の障害でいじめられた」なども、宮崎一人がそう言っていただけで、それを裏付ける第三者の証言は皆無だ。

「今田勇子」を騙って日本中の人々をかついだり、裁判では精神病を装おうとしたり、彼は基本的にウソつき男である。

綾子ちゃん殺害時の供述で、言い訳のように持ち出した“手の障害”は、同情を買って罪を軽減させるための、宮崎のペテンだった可能性が高い。詳細は拙稿「手の障害のウソ」にて。




●「野本綾子ちゃんは『つくば母子殺人事件』の犯人の姪」はガセ

これも出所は2chのネタ書き込み。被害者の一人、野本綾子ちゃんと94年の『つくば母子殺人事件』の犯人、野本岩男の姓が同じなのにこじつけたデマ。


http://ikura.2ch.net/test/read.cgi/archives/1297444447/101-200より

このデマはWikipediaの『つくば母子殺人事件』にも、2009年から2010年に渡って掲載されていた(現在は削除)。

Wikipediaより
野本岩男の妻子の遺体は、横浜市の運河で発見された。神奈川県警は遺体の状況から、つくば市内の野本の自宅が殺人現場との疑いを強め、二週間に渡り自宅を捜索した。

その間野本は、両親の住む茨城県・岩井市の実家から神奈川県警に通う形で、連日の事情聴取を受けていた。後に妻子の殺害を自供し、逮捕された翌日の記事。

―― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――毎日新聞 94年11月26日より

彼は毎回、警察署から帰る前に、律儀に両親に一報を入れていた。


(同上)


一方の、宮崎勤に殺された野本綾子ちゃん宅は、東京都江東区・東雲団地。

綾子ちゃんの父親のご両親宅は、東雲団地から車で15分の所。せいぜい有楽町か新木場辺りの圏内だ。ちなみに東雲団地から茨城県岩井市は、車で1時間半かかる距離である。

週刊文春89年8月31日号より(実名は当サイトで修正)

二つの家族は姓が同じなだけで、何の関係もない他人同士なのだ。綾子ちゃんの父親と野本岩男が兄弟など、全くのデタラメ。


●「『殺人者を判別する心理テスト』は宮崎勤が考案」はガセ

出所は「ハローバイバイ・関暁夫の都市伝説 信じるか信じないかはあなた次第」(竹書房 2006年)からと思われる。

この本自体が、あまりのバカバカしさに犬に喰わせたくなる、デマ・パクリ・ガセネタ集大成のゴミ本だ。もっともそんな本が売れて、何冊も続刊が出てるのだから、踊る阿呆に何とやらである。


めくるページめくるページ、やたらと著者の写真が載っているナルシストぶりにもヘキエキだが、一応、本題の宮崎ネタのみ言及しておこう(この本の最初から最後までツッコミ始めたら、サイトをもう一つ作れるテキスト量になろう)。

見出しの「心理テスト」だが、ここに引き写すのもアホらしいので、内容はWikipedia『医学・心理学に関する都市伝説』の一項目め「殺人者を判別する心理テスト」をご参照頂きたい。


何も自分の子供を殺さなくとも、その一目惚れした相手にお付き合いを申し込めばいいのではないか、というツッコミはさておき。
こんなテストそのものが鑑定には何の意味もない上、これは「
宮崎勤自身が考案した心理テスト」だとのたまうのだ。この男は。

収監され精神鑑定を受けている被告人が、なぜ自分でテストを考案し、自分でそれに答えるのか。遊んでいるのか。頼むから、バカは休み休み言ってほしい。


ちなみにこちらのブログで、この心理テスト(と称して流布してるモノ)の発祥元を探っている。

桜庭一樹作の暗黒ライトノベル『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(2004)に、主人公の少女が殺人犯と思しき男に、恐る恐るこの心理テストをするシーンがある。
もう少し古くは、2001年発売の
PS2ゲームソフトに、この心理テストが出てくるらしい。

いずれにせよ、関はそのうちのどれかからパクッたのであろう。




さらに、下らなさのあまり、脳が液状化して鼻から垂れてきそうな話が「宮崎は『羊たちの沈黙』のレクター博士のように、
幼女誘拐犯をプロファイリングする特殊捜査に加わっている」だ。

日本では表向き行なわれていないが、“協力者”は食事面などで好待遇され、贅沢ができるらしい。以下がその根拠だとか。


「ハローバイバイ・関暁夫の都市伝説」(竹書房 2006年)143ページより

この「久しぶりに姿を見せたとき」というのは、89年8月20日の、実況検分のニュース映像であろうか。彼の姿が長時間TVに写されたのは、ほぼこの時が最後だからだ。

この年の10月に起訴されて以降、死刑執行までの19年間、彼の姿は一切
TVに写されていない。

久しぶり?宮崎の姿が初めて
報道されたのは、深川署に移送された8月11日なんですけど?たった9日間ではないか。

全然痩せてはいなかったでしょ」とのことだが、では20日と11日の画像を比較しよう。
                              (朝日新聞89年 8月20日) (毎日新聞89年 8月11日)

これを見比べて「痩せてはいなかったでしょ」と言われても、どう答えたものやら。そもそも、その9日間、宮崎は取調べ漬けの日々だったのだ。いったい何の特殊捜査に加わったというのか(爆)。

一審や二審の判決が、数年おきにニュースで報じられた際、この実況検分の映像が何度も使い回された。どうやら関はそれを見て「久しぶりに姿を見せた」と勘違いしているようだ。

この項目を追加したことを、今さらながら後悔した。こんなアタマの悪いバカ男の話を真面目にとりあう自分自身が、あまりにも情けなくなったからだ。

仲間内やネットで、怪談めいた都市伝説を披露して楽しむのは別段ご自由だ。しかしこんなウソ八百の、しかも現実に死者が出ている事件をネタ化して出版し、金を儲けるとなると、それは品性を疑う行為というものだ。


こうしたヨタ話よりも不思議なのは、関暁夫といい、島田秀平
といい、なぜお笑い系の芸人は行き詰ると、いかがわしいデマ話を撒き散らすペテン師になるのか?の方なのだが。

島田秀平のインチキ都市伝説については、当サイト出張版ブログ「トトロ都市伝説」カテゴリ参照。

関暁夫の本では「中森明菜のミヤザキツトム発言」にも触れている。これは実際に、そうしゃべっている映像が残っているので、ガセではない。

だがこれも妙な想像がこじつけられて、都市伝説化して出回っている。一例は拙ブログ「小池壮彦氏の妄想記事」にて。

(ちなみに、放送事故とミヤザキ発言は別々の日の出来事。89年6月17日の「ねるとん紅鯨団」で放送中断事故があり、番組は
途中終了。翌週の24日に、お詫びと共に改めて17日分が再放送された。

中森明菜の言い間違いはその再放送でのオンエア。小池氏も関暁夫も、同じ日の出来事のように混同させて書いている。)


ニコニコ動画より

単なるタレントの言い間違いを、大の大人が大真面目に陰謀論に仕立てていることの方が、よほど奇怪で不気味な光景である。



●「89年のコミックマーケットでTVアナウンサーが
『ここに十万人の宮崎勤がいます』と報じた」はガセ?


残念ながらこの件も「?」マークがついてしまう。これについては、未だ結論が出せない。

文献資料を調べるしか方法がないのだが、とりあえず現時点では「十万人の宮崎勤」発言があった証拠は発見できていない。
はなはだ中途半端ではあるが、一応の調査結果を、後日、別項にてアップする予定。




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